8話 異世界転生?とりあえず生きるぜ(エリック視点)
ここからしばらくエリック視点が続きます。過去からアナベルに出会うまでの話です
「オギャア!オギャア!」
俺が前世の記憶を思い出したのは、産声を上げた瞬間だった。
「オギャ……。………」
「ほら!あんたの子を抱いてやんな!元気な坊やだ……あれ?急に黙った?」
「ああ……なんて可愛いの……私と旦那様の赤ちゃ……え?な、なぜ固まってるの?」
「……」
突然スン……と、黙り込んだ赤子に周りは慌てたが、俺はそれどころじゃなかった。
混乱していた。
俺は今、産まれたばかりの赤ん坊だ。なのに、アラフォーの体育教師として生きた記憶がある。
まさか、生まれ変わりって奴か?
俺は混乱しつつ「とりあえず今は赤ん坊だし、周りに育ててもらおう」と、切り替えた。
我ながらすぐ冷静になれてよかった。
教師だった頃はトラブル対応が多く、常に冷静で臨機応変に対応していた。その意識が生きてたお陰だな。
とりあえず赤ん坊らしくしよう。
アラフォーなのに赤ん坊の真似か。恥ずかしいけど我慢だ。そして勇気だ!
「オッギャアア!!!オーギャアアアー!!!」
「こ、今度は無表情のまま大声を出したわ!わ、私の赤ちゃん大丈夫なの?」
「ま、まあ、元気なのはいいことだ。きっと大丈夫さ」
せっかく勇気を出したけど、母さん(多分)と産婆さん(多分)の反応は微妙だった。
こうして俺は「ちょっと表情が死んでるけど元気な男の子」として受け入れられ、『エリック』と名付けられて育った。
◆◆◆◆◆
7歳になる頃には、この世界は元いた世界とは違うことと、異世界転生したことを確信していた。
というのも、身の回りがファンタジーなせいだ。
俺が生まれたのは、森と山と畑に囲まれた村だ。どことなく昔のヨーロッパっぽい雰囲気だし、森と山には魔獣が普通に居る。
魔獣とは、文字通り魔法が使える獣だ。様々な種類がいて、食料や素材になる。そして、非常に危険な生き物だ。
中には人間を好んで襲ったり、畑を荒らす種類もいる。また、放置しているとどんどん強力な魔獣が増える。
魔獣が増えると瘴気と呼ばれる毒の霧が発生し、人里を飲み込んでしまうそうだ。
「瘴気は聖人聖女様に浄化して頂くしかない。そうなる前に、自分たちで魔獣を狩るんだ」
青空の下、近所に住むジョンおじちゃんが説明してくれる。ジョンおじちゃんは、村一番の猟師であり土魔法使いだ。
面倒見のいい人で、この日も俺と他の子供に狩りのことを教えてくれた。
俺たちは幼すぎて、実際の狩りにはついていけない。魔獣も討伐後の死体しか見たことがないし、魔法が使える人は限られている。
ジョンおじちゃんは、家の庭で魔法を使って見せてくれた。
まず、木で出来た的に向かって手をかかげる。
「魔法は、魔力が無いと出来ない。魔力には属性があって、その属性の魔法しか使えない。俺の魔力は土魔法属性だから、土魔法が使える。
石よ!矢となり獲物を射抜け!【石矢(ストーンアロー!)】」
詠唱が終わってからは一瞬だった。
ジョンおじちゃんの周りの石と土が浮かび、融合して鏃のような形になる。大きさは大人の親指くらいだろうか?
パァン!
鏃が飛び、小気味いい音と共に的が射抜かれた。
「ジョンおじちゃんすごい!」
「カッコいい!天才!」
「きゃー!素敵ー!」
「へへっ。照れるぜ。だけど俺は魔法使いとしては未熟だ。魔力は弱いし、技術も高くない」
「ええ!?そうなの?」
「ああ、この村で一番魔法が上手いのは、教会の神官様だ。その次はトム爺とアナ嬢ちゃんだ。
その三人も、俺が昔見た聖女様御一行には敵わねえがな」
ジョンおじちゃんは、昔は別の地域に住んでいたそうだ。そこで魔獣の大発生があって、聖女様が退治と浄化の為に来てくれたという。
「聖騎士様たちは、山のような魔獣の群をあっという間に倒した。俺はこんな小さな鏃しか出せないが、聖騎士様は違う。土魔法なら、丸太みてえにデカい土の槍を何本も出したり、地割れを起こしたりする。
火魔法の聖騎士様もすごかったな。森を焼き尽くすかと思ったぜ。
中でも一番凄いのは聖女様だ」
興味深い話だ。俺は更に質問した。
「聖女様も魔獣を倒すのか?」
「いや。聖女様や聖人様は戦わない。
聖女様がたの魔法属性は【神聖魔法】だ。とても貴重な魔法を使える。
国を守る結界を張ったり、瘴気を浄化したり、ありとあらゆる傷と病を治したり、他人の能力を底上げたりな。他にも、聖女様がただけが使える魔法があるらしいぜ」
「ん?他人の能力を底上げ出来るって言ったか?ひょっとして、聖騎士様の能力は聖女様か聖人様が底上げしているのか?」
「エリック、お前は賢いなあ。そうだ。聖騎士様は元から高い魔力や剣の腕を持ってるが、聖女様がたの魔法【神聖祝福】によって底上げされているんだ」
なるほど。聖人聖女の能力は、護りや癒しに特化している。聖人聖女を護り、戦うために聖騎士はあるんだろう。
「ただ、この【神聖祝福】に耐えられる身体を持つ者は限られている。誰でもこの魔法を受けれる訳じゃない。
聖騎士様になれるのは、一定以上の魔力を持ち、【神聖祝福】に耐えれる身体を持つと【鑑定】された者だけだ。もちろん、聖人聖女様の証である【神聖魔法属性】があるかも、【鑑定】で調べられる」
【鑑定】は、文字通り魔力の有無や量、身体状態を確認する検査だ。この国の子供は、全員受けることになっているが……。
「ジョンおじちゃん。俺たちは、いつ【鑑定】されるんだ?」
ジョンおじちゃんの顔が曇る。
「本当なら、司教様が毎年いらして【鑑定】して下さるはずだが、田舎は放置されがちだからなあ……。
まあ、神官様が何度も申請をしているから、いずれは受けれるはずだ」
「ふうん。そうなの。仕方ないねえ」
「はやく【鑑定】されたいー!」
は?それって教会と司教の怠慢じゃないか?
俺は一度も鑑定を受けてない。つまり司教様とやらは、7年はこの村に来ていないということだ。
イラっとして吐き捨てかけたが、我慢した。
誰もが信仰心が強く教会を絶対視している。おまけに教会と国は密接に繋がっているので、下手なことを言うと村八分だ。
◆◆◆◆◆
夜。モヤモヤを抱きながら寝返りをする。
家は狭い。母も同じ部屋で寝ているが、ベッドは別だし眠りは深い。
だから俺は、夜のベッドの中で独り呟いて考えをまとめるのが日課だった。
昼間聞いた話を思い出しつつ呟く。
「結局この世界って、前世で観たアニメか何かの世界か?確認したいけど、出来そうにないんだよな……俺と同じ転生者はいないみたいだし」
少しカマをかけてみた。
村のあちこちに日本語で『日本語がわかる奴は、エリックに会いに行け』と、書いたのだ。
けれど、反応はなかった。周りは「変わった模様だな」と言ったり「悪戯書きか?」と呆れるだけだった。
俺のような転生者はいない。少なくとも日本人は居ないのだろう。
「寂しいな……」
なんだか急に心細くなった。
だけど、こんな孤独感や悩みなんて、周りに打ち明けられない。どう考えても、幼児が空想癖をこじらせたか、何らかの精神疾患に罹ったと思われる。
「どうして俺はこの世界に転生したんだ?
もしかして、何かの主人公に産まれたのか?」
そう思ったのは、俺の産まれがそれっぽいからだ。
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異世界恋愛小説です。ダーク、ざまあ、因果応報のハッピーエンドです。