6話 アナベルの敵と味方(仮)
「というか私、敵が多すぎる!」
そう。この時点ですでに、私を利用していたり殺そうしてたり執着しているイケメンがいるのだ。
一人目。私を利用するイケメンは、お姉様の婚約者だ。
名前はジョルジュ・トリュフォー。
トリュフォー伯爵家の三男で、金髪碧眼のイケメンだ。
だけど私が知る限り、小説と同じく性格が腐っている。
お姉様の虐待に加担しつつ、私と両親に取り入っている。『マルグリットは地味で華がないし、話していてつまらない。可愛くて楽しい君の方が、子爵家の後継ぎに相応しい』なんて、クソみたいな言葉を囁きながら。
小説ではお姉様に暴言を吐いて婚約破棄し、健康を取り戻した私と婚約を結び直す。
でもそれは、私が好きだからじゃない。ベルトラン子爵家の金と爵位が欲しいだけだ。お姉様を虐げたのも、私と婚約を結び直したのも、その方が両親に気に入られるし、子爵家の金を使いやすいからだ。
しかも私と結婚した後は、両親ともども殺して家を乗っ取る計画を立てている。
そんな男なので、小説では私と両親が借金苦におちいると速攻で見捨てて逃げた。
はっきり言ってクズだ。クズ担当イケメン!
「私が連行される前に、お姉様への暴言を証言して婚約破棄させればいいと思ってた。
だけど、この世界の貴族の婚約って、暴言だけじゃ破棄も解消も出来ないみたいなんだよね……」
二人目。私を殺そうとするイケメンは、お姉様の幼馴染だ。
名前はアレクシス・デュラン。
隣のデュラン男爵領の四男で、赤髪にオレンジ色の瞳のイケメン。心からお姉様を愛している文武両道の好青年……なんだけど、私を無茶苦茶憎んでいる。
8年前。お見舞いに来た彼が、私を叱ってお姉様をかばった。
私は癇癪を起こして暴れ、彼が屋敷に来ることと、お姉様と会うことを禁じたのだ。
しかも、内定していた二人の婚約も破棄させた。代わりにお姉様の婚約者に決まったのが、あのクズだ。
お姉様を虐待し、お姉様と会うことを禁じ、ほぼ成立していた婚約を破棄させた私を、彼は深く憎んでいる。
小説の彼は、私と両親が破滅するよう手を回し、裏社会の借金取りを差し向ける。
私が違法娼館に落ちるようにしたのも彼だ。理由は明確。私を徹底的に貶めて屈辱を与え、死ぬまで苦しめるためだった。
私が娼館を足抜けしてからは、お姉様に危害を加えようとする度に阻み、私を殺そうとする。
お姉様の敵を絶対許さない。腹黒担当イケメンだ。
「悪いのは私だけど、殺意が強過ぎるんだよね。しかも感情を隠すのが上手いから、表向き許して裏で……って、パターンもあり得る」
三人目。私に執着しているイケメンは、子爵家の使用人だ。
準男爵家の出で、青髪で色白のイケメン。私に一目惚れして密かに想いを募らせている。
小説では、借金取りに攫われた私を探し続ける。
しかし、再会した私に幻滅し『違う!お前のような穢らわしい女がアナベル様な訳がない!売女め!消えろ!』と言って、ナイフで滅多刺しにする。
ちなみに、腹黒担当イケメンが裏で手を回していた。
執着狂愛。ヤンデレ担当イケメンってところかな。
「一番なにをするかわからなくて怖い。しかも使用人の内の誰かわからないし。小説では、名前も役職も出ていないんだよね」
準男爵家出身、青髪、イケメン、恐らく成人しているはず。くらいの情報しかない。
この世界はファンタジーらしく、青髪は珍しくない。この屋敷には、男性の使用人が三十人ほどいて、そのうちの三人が条件に当てはまる。
だけど、三人とも私に気がある素振りはしていない。
一体、三人のうちの誰なのか、それとも実はいないのか……。
「クズはお姉様にとっても百害あって一利なしだし、腹黒は私を許してくれるかどうか怪しいし、ヤンデレは居るのかすらわからないし、どうしたらいいの!」
「一人で抱え込まず、周りに相談したら良いんじゃないか?」
「へ?」
びっくりして振り返る。なんと聖騎士エリック・ルグラン様がいた。
「な、ななな何でここに!?というかこの部屋は私の自室で、入室の許可を出していませんよ!?」
ルグラン様は頷き、なんとその場で跪いた。
「君の言う通りだ。後で償わせてくれ。これ以上近づかないと誓うし、俺の話が分からなければ人を呼んでいい。ドアは開けてるから、すぐに誰か来るだろう」
「は、はあ?話、ですか?」
割と気安く話していたはずだけど、わざわざ二人きりで?
「ああ、どうしても君と二人きりで話したかった。
……君は前世で、この世界を描いたアニメを観たことがあるのか?」
「へ?」
「待てよ。漫画かゲームか小説って可能性もあるな。どれだ?」
「いや、ちょ、ま。まさか、貴方も転生者なんですか?」
「そうだ。前世では、日本で体育教師をしていた」
「えええええ!?」
何と、小説のヒーロー役である聖騎士エリック・ルグラン様は、私と同じ転生者だった。しかも日本人で、同じくらいの年齢で、生きていた時代も同じらしい。
「やっぱりな。年齢のことを言うのは失礼かもしれないが、同世代か少し下ぐらいだと思ってたよ」
「気にしないで下さい。それにしても、こんな事あるんですね。ルグラン様はどこ出身ですか?私はN県出身で、大学は……」
しばらくの間、お互いの身の上と小説の情報などを話し合った。
「まさか俺がヒーロー役で、ミシエラと結ばれるとはな……」
「私も、お二人の間に恋愛感情がないうえに、聖女ミシエラ様に相思相愛の婚約者がいるとは思いませんでした。原作のお二人はラブラブでしたから。
ところで、少しくらいロマンスがあったのでは?」
「ミシエラと?考えたこともない。現世の俺はまだ17歳だが、前世ではアラフォーだ。14歳のミシエラにそんな気にはなれない。精神年齢が同世代か少し下なら別だったろうが、あいつは年相応だしな。はっきり言って生徒を見守っている気分だ」
そういえば、ルグラン様ってまだ17歳なんだった。
もともと大人っぽいし、中身が大人だから20歳以上に見えていたけど。聖女ミシエラ様も、15歳の私より年上に見える。それはともかく。
「ああ〜。その感覚わかります。私も前世を思い出してから、お姉様への庇護欲が止まらなくて。姪っ子にしてたみたいに、頭を撫でたり褒めそうになっちゃうんですよね」
「わかる。お陰でミシエラからは『エリックって、落ち着き過ぎててお爺ちゃんみたいですね』とか言われる」
「割と辛辣!ギャップ萌え!」
ルグラン様は、産まれた時から前世の記憶があった。そのため、すぐに異世界転生したと気づいたらしい。
「ただ、原作のある世界かどうかは分からなかった。前世の俺は、あまりサブカルに詳しくなかったしな。生徒との話題作りで多少は知っていたが」
私が転生者であることは、土下座した事と『ざまぁ』という単語を使った事で気付いた。
さらに私の話した内容から『この世界の事を知っているのでは?』と気付いたという。
確かにルグラン様も『土下座』って単語をつかっていた。あの時点で気づけよ私……。
「しかし、本当に嬉しいよ。君に会うまで、転生者を見つけることは出来なかった。最近では、前世は俺の妄想かもしれないと思いはじめたところだ」
それは、どれだけの不安と孤独だろう。私は胸が痛くなった。
「……お辛かったですね」
「ああ。だが、その辛さも君と会えて消えたよ」
幸せそうな笑み。なんだかドキドキしてしまう。
ルグラン様、まだ知り合って二週間も経ってないけど、見た目だけでなく中身も素敵な人。ドキドキするのは仕方ないよね?
「君と出会えたことは、俺の人生最大の幸運だ。だから君の力になりたい。君の悩みを取り除きたい。
どんな時でも君の味方でいると、今ここで誓う。どうか、俺の手を取って欲しい」
ルグラン様は、跪いた姿勢のまま私に手を差し出した。
わあ!なんだかプロポーズみたい!
嬉しくて、ちょっと照れ臭い。
「あはは!ちょっと大袈裟過ぎませんか?……私も貴方に会えて良かった。私も貴方の力になりたい。お互いに支え合いましょう」
私はルグラン様の手の上に、己の手を置いた。
その瞬間。
「「おめでとう!」」
「へ?」
声がした方を見ると、廊下に通じるドアが開いていた。そしてマルグリットお姉様、聖女ミシエラ様が満面の笑みで立っている。
は?なに?どういうこと?
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異世界恋愛小説です。ダーク、ざまあ、因果応報のハッピーエンドです。