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5話 どうしてこうなった?

 あの日。私とマルグリットお姉様は、抱きしめあって泣いた。しばらくそうしていたら、聖女ミシエラ様が優しく話しかけて下さった。

 子供に語りかけるみたいな、優しい柔らかい声で。


「お二人とも、そんなに泣いてはお目々が溶けてしまいますよ」


「す、すみません」


 私たちは身を離し、侍女長に涙を拭いてもらった。なんだか子供の頃みたい。

 お祖母様たちが生きていた頃。お姉様は大人しい性格だったけど、私と一緒に無邪気に遊ぶことも多かった。

 はしゃいで転けて泣いたら、祖父母か侍女がこうやって涙をぬぐってくれた。

 優しい記憶にほっこりする。


「うふふ。アナベルと抱きしめあって泣くなんて、なんだか小さい頃みたいね。くすぐったいわ」


「えへへ。私もそう思いました。懐かしいです」


 ああ、お姉様の安心しきった笑顔、久しぶりに見れた。それこそ小さい頃以来だ。

 もう、悔いはない。

 私は姿勢を正し両手をそろえる。深く頭を下げて土下座した。


「聖女ミシエラ様、聖騎士ルグラン様。お手数ですが、私のことも拘束(こうそく)して監禁して下さい」


 お姉様には何一つ罪はないが、私は違う。両親と共に、しっかり罪を(つぐな)うのだ。

 私は当然のことを言った。そのはずだった。


「えっ?アナベルを拘束?監禁?何故?」


「アナベルさん、何を言ってるんですか?」


「は?しかもまた土下座?」


 周りの反応がおかしい。信じられない物を見る目だ。


「え?だって、私もお姉様を虐待した加害者です。裁きを受ける立場でしょう?」


「そんな訳ないでしょう!貴女がお父様とお母様の罪を明らかにしてくれたのよ!むしろ私の恩人よ!」


「え?で、でもお姉様……」


 聖女ミシエラ様とルグラン様も頷く。


「アナベルさん、確かに貴女のやったことはいけないことです。取調べも受けるでしょう。ですが、貴女は難病によって錯乱していましたし、回復後はすぐに謝罪して態度を改めました。

 私は、貴女に重い罰は必要ないと思います」


「ああ、役人も罪に問わないだろう。

 君を罪に問うなら、怪我や病で錯乱して暴れた患者全てを罪に問わなければならない。しかも、君は未成年だ。ご両親の影響を強く受けていた。アナベル嬢、君もまた被害者の一人だ」


「で、でも、理由があるからと言って、罪が許されるのはおかしいです。お姉様を虐げていた事実があるのに、私だけがお(とが)めなしになる訳にはいけません」


 でなければ、虐げられていた頃のお姉様が浮かばれない。

 ……それに、罪悪感だけじゃない。打算もある。これからのことを考えると、私は刑務所か修道院に入った方がいい。

 だから早く拘束して監禁して欲しいのだけど……あの、ルグラン様、聖女ミシエラ様、なんですか?その優しい眼差しは。


「アナベル嬢、君は責任感が強すぎる」


「そうですよ。自分を責めてしまう気持ちはわかりますが、必要のない罰を受けることはありません」


 あああ!お二人の慈悲深さが辛い!

 このままじゃ許されてしまう!なんとか罪に問われないと!


「執事長、侍女長。貴方達は、私がどれだけ酷いことをしてたか知っているでしょう?マルグリットお姉様のために、ありのままを証言して下さい」


「……確かに、アナベルお嬢様のなさりようは酷いものでした」


「そうだよね!罪を償うべきだよね!」


 よし!レッツ監禁のち裁判!刑務所または修道院!イェーイ!


「ですが、魔炎(まえん)病に罹られるまでのアナベルお嬢様は、聡明で姉君想いのお優しいお方でした。ちょうど今のアナベルお嬢様のように」


「はい。やはり全ては、魔炎病とマルグリットお嬢様を虐げたご領主様方のせいだと思います」


 え?なにその優しい言葉と表情は?え?私が元に戻ると信じて待ってた?お帰りなさい?

 そんな簡単に人を信じないで!疑いなさいって!


「ち、違う。私は罪人で、許されるべきじゃなくて……」


「アナベル……」


 お姉様の瞳からまた涙があふれた。嬉し泣きじゃない。悲しみの涙だ。

 私が泣かせた?

 どうしよう。私はまた、お姉様を傷つけてしまった。


「私たちが小さい頃のこと、覚えている?貴女とお祖母様とお祖父様が、お父様たちから私を守ってくれていた」


「お姉様……うん。覚えてるよ」


 私たちの両親は、昔から怠惰で傲慢だった。他人に対する嫉妬心と(ひが)み根性ばかりが強かった。

 それに反し、前ベルトラン子爵夫妻……私たちの父方の祖父母は、有能で努力家だった。自分にも他人にも厳しかった。

 祖父母はお父様を厳しく育て、お母様を徹底的に指導した。

 とはいえ、私が知る限り行き過ぎた言動は無かったし、教育や指導以外では優しい人たちだった。

 祖父母はただ、二人に立派な子爵夫妻になって欲しかったのだろう。

 しかし両親は、それを理解しなかった。祖父母を憎み、その有能さを(ねた)んだ。

 だからこそ、黒髪黒目の祖父母に似たお姉様を憎み、自分たちの華やかな色を受け継いだ私を溺愛したのだ。

 祖父母はそれに気づいていたので、両親を(いさ)めて私たちを厳しく育て、同じように慈しんだ。

 だから祖父母が生きていた間は、『何となく姉妹格差があるな』『姉に対して強く当たっているな』程度で済んだ。

 私とお姉様の仲も良好だった。

 むしろ事あるごとにお姉様をおとしめ、私を猫可愛がりしようとする両親は苦手だった。

 祖父母が生きている間は一緒に、その後は使用人たちと共にお姉様をかばった。時には一人で両親を叱った。


『お父様!お母様!やめて下さい!どうしてマルグリットお姉様に酷い事を言うんですか!』『そんな事を言うお二人なんて嫌いです!』


 こんな風に叱り飛ばしていたっけ。

 あれ?私は自分でも性格が変わったと思ったけど、魔炎病に罹る前と完治した今は、あんまり変わらないかも?

 考えていると、お姉様に手を握られた。涙が浮かぶ眼差しに囚われる。


「アナベル。私の大切な可愛い妹。貴女は私の尊厳を守ってくれた。

 貴女が魔炎病に苦しむ姿を見るのが辛かった。どうしても治したかった。貴女の苦しみが少しでも楽になるならと、どんな仕打ちも受け入れた」


 だからお姉様は、あんなに私を慈しんでくれたのか。知らなかった。小説にも『幼い頃は仲が良かった』としか書いてなかった。


「でも、それは正しくなかった。貴女は誇り高き淑女。

 八つ当たりを受け入れたせいで、かえって貴女を苦しめる結果になってしまった。

 私は貴女を甘やかすのではなく、もっと貴女をいさめて話すべきだった。

 貴女に罪があるとしたら、私にもそうさせた罪がある。

 どうか、一人で家を出て償うなんて言わないで。

 ……私を一人にしないで」


 うわあああ!ここまで言われたら拒否できない!


 こうして、私は監禁されなかった。役人様がたも同情的で、ほぼ確実に罪に問われない見込みらしい。


 どうしよう。



 ◆◆◆◆◆◆



「いや、マジでどうしよう」


 小説の私の『娼館落ちして裏社会の極悪イケメンに身請けされるけど、利用されて最終的に裏切られる』エピソードとか、『聖女ミシエラ様に復讐しようとして、聖騎士エリック・ルグラン様にぶった斬られ、命は助かるけど悲惨な傷が残る』エピソードとかは回避したけど、それで終わりじゃないんだよな。


「というか私、敵が多すぎる!」


 そう。この時点ですでに、私を利用していたり、殺そうしてたり、執着しているイケメンがいるのだ。



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