4話 緊急逮捕と姉妹の涙
「そうか。ではマルグリット嬢にも聞いてみよう。マルグリット嬢、宝玉果の果樹園のある村の名はなんだ?」
「え?」
「マルグリット!余計なことは言うなよ!」
お父様の怒号。マルグリットお姉様は、私の手を握る力を強めた。
はげましたくて手の甲を撫でる。
お姉様、お父様なんて怖くない。怯えなくていい。私が守るから。
思いが通じたのか、お姉様の手から力が抜け、その唇からはっきりとした声が放たれた。
「いいえ。宝玉果は、この屋敷の敷地にある温室でしか育てていません」
「その通りだ。この書類にもそう書いてある」
「な!?なんだと!?」
聖女ミシエラ様が呆れた様子でため息を吐いた。
「私とエリックでも知っている有名な話ですよ。まさか、ここまで自領の特産品のことを知らないとは思いませんでした」
典型的な引っ掛け問題だ。
宝玉果は、南国産の希少な果物だ。果実の形は桃に似ているが、蔓性植物で高温多湿を好む。この国では、温室でしか育てられない。
お姉様は私の『宝玉果が食べたい!』という我儘を叶えるため、栽培法を研究し、我が国で初めて商業生産に成功したのだ。
改めてお姉様って凄い!天才!
お父様はがっくりと肩を落とし、お母様も家政について同じように質問されて撃沈した。
聖女様たちは呆れ返った様子だ。
というかお父様もお母様も、どうして宝玉果を育てている場所すら知らないの?
二人とも『社交をする』と言っては出かけてたけど、ただ遊んでただけなんだろうな。
でなきゃ、領の収益を大幅に上げた作物のことがわからないなんてあり得ない。
それに宝玉果は、今はまだ知られてないけど凄い効能が……。
「アナベル!助けてくれ!全部嘘だと言え!あんなに可愛がってやっただろう!」
「助けて!アナベルちゃん!大好きなお母様と会えなくなってしまうのよ!」
見苦しい声に思考が途切れた。
いつの間にか、両親は縄で拘束されていた。貴族院から役人が来るまで監禁するそうだ。
だから、必死になって私にすがっているんだろうけど。
「私は発言を撤回しませんし、お姉様を虐めるお母様のことは嫌いです。ああ、もちろんお父様も嫌いです」
「ふざけるな!この恩知らずが!」
「ひどい!どうしてそんなことが言えるの!」
「お父様、お母様、罪を認めて償いましょう。私もそうしますから。
……というか、この時点で『ざまぁ』されてた方が、マシな死に方ができますよ」
「「は?」」
いやマジで。爵位剥奪と国による労役刑でしょ?その程度で済むならマシだよ。
小説の私と両親は悪役だ。当然、『ざまぁ』で全てを失う。しかも『ざまぁ』は、かなり苛烈な内容だ。
まず、借金苦の果てに領地と爵位を奪われ、お姉様にすがろうとして失敗。裏社会の金貸しにさらわれてしまう。
裏社会の金貸しは私を違法娼館、お父様を劣悪な環境の鉱山、お母様を裏社会の医療機関に送って働かせた。
私は娼婦となり苦渋を舐める。後に顔だけは良い極悪人に身請けされて、お姉様と聖女様たちに復讐しようとしては返り討ちに合う。
お父様は鉱夫となり、心身共にボロボロになる。最期は落盤した鉱山に取り残されて、恐怖と苦痛にまみれながら死ぬ。
お母様は治験体……いえ、実験体となった。様々な薬や毒を打たれ、怪我の治療を試されて、すぐに心が壊れ身体も崩壊して死んでしまう。
この世界の裏社会怖過ぎる!
だから私は、現時点での罪に応じた『ざまぁ』をされたい!そして出来れば、出家して修道院に行きたい!
あ、でも修道院は無いか。両親の悪行に加担してたから、裁判のち刑務所で労役が妥当かな?
いいじゃん刑務所!
この世界は、修道院も刑務所もちゃんと管理されてる。労役やお勤めは大変だろうけど、虐待される可能性はかなり低いはず。娼館からの裏社会よりずっといい。
刑務所行きたい!しっかり罪を償いますからお願いします!
「ざまぁ?意味のわからないことを……ウグ!フガフガ!」
「ンガー!ンンー!」
両親は、猿轡で口をふさがれ、荷物のように担がれて退出した。見事な『ざまぁ』っぷりだ。
さようなら。ろくでなしのお父様、お母様。
もう貴族ではいられないだろうけど、罪を償って真っ当に生きて欲しい。この性格じゃ難しいかもだけど。
遠い目になっていると、握ったままだったマルグリットお姉様の手が震えた。
「聖女ミシエラ様、聖騎士ルグラン様、私も拘束して下さい。知らなかったとはいえ、私は両親の罪に加担しました」
後で知ったけど、お姉様はお父様から『申請して認可を受けている。代筆の許可も得ているから、書類は全て私の名で作成するように』と言って騙していた。
『陛下から認可を受けたのだから、身を粉にして働け』とも言われたとか。
あの糞親父!最後にぶん殴っておけばよかった!
「はぁ!?お姉様が悪いわけ無いでしょ!被害者だよ!」
「アナベル。気持ちは嬉しいわ。でも……」
「マルグリットさん、アナベルさんの言う通りです。貴女は強制されて逆らえなかった。それにあの法律は、立場の弱い子供を保護するために制定されたのです」
「とはいえ、現時点ではどのような沙汰が降りるかわからない。マルグリット嬢が怯えるのも無理はない。
だが、役人が来るまで気をしっかり保って欲しい。子爵夫妻が拘束された今、この屋敷と子爵領の采配ができるのは、名実ともに君だけなのだから」
お姉様はハッ!と、気づいた様子で顔を上げた。ルグラン様が少し微笑んで頷く。
頼もしい!カッコいい!
それにしても、ルグラン様、小説より頼もしくて落ち着いてるなあ。怒りっぽくて口下手だったはずだけど。
まあ、いいや。それより私もお姉様をはげましたい。
「そうだよ。マルグリットお姉様がお屋敷を守り続けてくれたことも、子爵領を盛り立ててくれたことも、みんなわかってる。もしお姉様が罪に問われたら、みんなで抗議するから!」
執事長と侍女長も頷く。
「この老骨も抗議しますぞ!傾いていた子爵領を建て直したのはマルグリットお嬢様です!」
「ええ!お嬢様こそが、真の屋敷の女主人様であり、ご領主様なのですから!」
「貴方たち……」
お姉様の瞳から涙があふれる。ああ、黒い瞳がキラキラ輝いて綺麗。黒曜石かブラックダイヤモンドみたい。
両親も小説の私も、本当に見る目がない。
私はたまらなくなって、美しい涙を流すお姉様を抱きしめた。
すぐに、『私にそんな資格はない』と思い出して離れようとしたけど。
「みんな、アナベル、ありがとう……ありがとう……貴女たちの言葉で……私のこれまでは報われたわ!」
「マルグリットお姉様……うわあああん!」
お姉様が強い力で抱きしめるから、その言葉があまりにもあたたかいから、私まで大声で泣いてしまった。
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異世界恋愛小説です。ダーク、ざまあ、因果応報のハッピーエンドです。




