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【第2部完結】欲しがる妹アナベルは『ざまぁ』されたい!  作者: 花房いちご
第2部

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第2部 18話 親の心子知らず

 私、お姉様、ルグラン様は、ベルトラン子爵家名義でおさえている談話室に移動した。お姉様の専属侍女たちもいる。

 防音の魔道具などを起動させ、準備が整ったあたりでトリュフォー伯爵もやって来た。


「失礼する」


 侍従が一人同行しているが、他の家族はいない。まだ社交中だからだろう。

 トリュフォー伯爵は、顔色の悪さを隠せていない。心なしか、一回り小さくなったようにも見える。


「どうぞ、おかけください」


 お姉様は淡々と席をすすめた。


 談話室は赤茶色を基調とした落ち着いた内装だ。

 長テーブルの短辺に二人がけのソファが一つづつ、長辺の片方に三人がけのソファが置いてある。私とルグラン様は三人がけに座った。

 お姉様とトリュフォー伯爵は短辺のソファにそれぞれ座り、長机を挟んで対峙した。


「ベルトラン子爵殿。愚息は貴殿の慈悲を理解しなかった。私が言葉で説明するより、見てもらった方が早い」


 伯爵は侍従に指示し、ブローチ型の魔道具を起動した。

 魔道具から映し出された映像と音声に、私もマルグリットお姉様も怒りと嫌悪で吐き気が込み上げる。

 王城内でお姉様を陵辱し、ベルトラン子爵家を乗っ取り、私にも毒牙をかけるつもりだった。ルグラン様は黙っている。けど、怒りで握りしめた拳が震え、目が血走っている。

 映像は最後、令息がユリアの身体に貪りついたところで切れた。

 お姉様は深く溜息をつき、向かいに座るトリュフォー伯爵を睥睨(へいげい)する。


「……この穢らわしい愚か者は、いまどちらに?」


 もう「トリュフォー伯爵令息」とすら呼びたくないらしい。気持ちはわかる。


「当家の馬車で領地に向かっている。映像が終わった直後に、失神させて運ばせた」


 部屋の温度が下がった気がした。お姉様の全身から絶対零度の怒りがあふれる。


「それは残念です。私の手で八つ裂きにしてやりたかった。

 よくもまあ、ベルトラン子爵であるこの私、ベルトラン子爵家、そして私の大切な妹を侮辱してくれたものです。だというのに、愚か者の生命を奪うなと言うのですか」


「……貴殿の怒りは最もだ。全ては私の不徳と、貴殿の温情を蔑ろにしたジョルジュの罪だ」


 ジョルジュ・トリュフォー伯爵令息の罪は重いが、まだ若い。だからトリュフォー伯爵は、お姉様に温情を乞うた。


 今回、お姉様がジョルジュ・トリュフォー伯爵令息に求めた筋書き……罰は幾つかあった。

 その中からトリュフォー伯爵は、【婚約は円満に解消したことにする。夜会後は速やかに貴族藉を剥奪し、トリュフォー伯爵家から除名する。貴族時代の財産は持たせない。一生を平民として過ごさせる。】だった。


 一番穏便な罰だったが、トリュフォー伯爵は「ジョルジュはまだ若い。更生の機会を与えたい」と言って罰の緩和を求めた。


【一度は平民。しかも本人が最も嫌がるであろう農民にする。マルグリット・ベルトラン子爵との婚約期間と同じだけ働き、心から反省したと判断されたら下級役人か従僕にさせる。

 ベルトラン子爵家にとって得がないので、もちろん無償ではない。慰謝料も支払う】こんな内容だ。


 確かにジョルジュは愚かだが、更生の機会は与えてやりたい。

 トリュフォー伯爵の親心からの提案に、マルグリットお姉様も受け入れた。ここで無理に厳罰を求めれば遺恨になりかねない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので、条件をつけた。


 こんなやり取りがあったそうだ。




 ◆◆◆◆◆◆



 お姉様が襲爵してすぐの話し合いの席にて。


「ジョルジュ・トリュフォー伯爵令息が、夜会中に私を襲う計画を立てている。という情報があります」


「ま、まさか。いくらジョルジュが愚かでもそこまでは……」


「ええ。私も愚かでないことを祈っています。ですが、だからこそ厳しい筋書きを考えたのです。万に一つもこれ以上の間違いが起こらないように。

 それに、ご子息は危険な薬品を購入しています」


「な!?」


「それは誠ですか!」


 トリュフォー伯爵夫妻に、薬品の購入記録などの証拠を見せれば蒼白になった。


「いずれにせよ、夜会で婚約解消と罰を告げます。

 令息が反省し、大人しくしていれば結構。愚かな行動をするなら温情をかける価値はありません。予定通り、生涯を平民として過ごしていただきます。

 また、愚かな行動に出た場合は映像で記録して下さい。その内容が特に悪質な場合は、令息の生命で(あがな)ってもらいます」



 ◆◆◆◆◆



 そして現在に話は戻る。トリュフォー伯爵は苦悩を滲ませた。


「ベルトラン子爵殿の懸念通りだった。ジョルジュは信じられない程の愚か者だ。何故、このような暴挙に出たのか……」


「全くです。腹立たしく悍ましい。しかし、よくこれほど正確に記録できましたね」


 令息は罪を暴かれ「控室で大人しく待て」と命令されていた。だというのに、薬物を使って逃げ出し、私たちに危害を加えようとした。


 トリュフォー伯爵は、あらかじめ侍従たちに命じていた。大人しくしているなら良し。逃げ出すようなら、泳がせて意図を聞き出し記録しろと。

 薬物も、全て無害な偽物とすり替えていた。悪事に加担した侍従たちの言動も演技だ。【協力者】からの情報をもとに、伯爵が脅して従わせていたのだ。


急拵(きゅうごしら)えの策だったが、ベルトラン子爵殿から紹介された【協力者】達の助力のお陰だ。あの娘の身柄も、【協力者】がいなければ押さえられなかっただろう」


 あの娘……ユリアは、元はトリュフォー伯爵領の平民の娘だった。幼いジョルジュが一目惚れして求愛し恋人となったが、表向きは一度別れたそうだ。

 その後、ジョルジュが密かに王都の家を買って住まわせていた。必要な金は全て、婚約者との交流予算と、お姉様やベルトラン子爵家からの贈り物を売ってまかなっていたそうだ。

 ジョルジュは上手くやったのでバレなかった。ユリアが困らないよう、たっぷり金を与えて姫のように大切にしていたし、家族に隠れて逢瀬していた。

 ただまあ、ユリアの恋人はジョルジュだけじゃなかったらしいけど。


 ちなみに、【協力者】にユリアを用意させたのは私とルグラン様のアイデアだ。

 罰の緩和を申し出られるかもしれないので、あらかじめ計画していた。


 ユリアはメイドということにして入城させ、睡眠薬を盛って控室の小部屋に放置しておく。

 令息が愚かな行動をした場合は、二人揃って媚薬を飲ませ、王城内での猥褻行為を映像に残す。


 このアイデアは、トリュフォー伯爵側からはドン引きされたらしい。だが、私もルグラン様も必要だと思った。


 ジョルジュは軽く考えていたらしいが、王城内での猥褻行為が露見すれば、厳罰の対象となる。

 この映像がある限り、ジョルジュ・トリュフォー伯爵令息……いや、平民のジョルジュは二度と貴族には戻れない。


 お姉様は厳しい顔でトリュフォー伯爵に迫る。


「愚か者が返り咲く機会は永遠にありません。いっそ、死なせた方が温情でしょう。

 だというのに、生かせとおっしゃるのですか?」


「私たちはジョルジュを、大人しくて覇気がないが善良だと思っていた。突出した才能はないが真面目だ。婚約者のことも大切にしているだろう。そう信じていた。

 才能豊かな兄達に劣等感を抱いてるのはわかっていたし、家族の前では常に萎縮していた。婿入り先を決めて放任した方が、本人のためだと思っていたのだ。

 ジョルジュの罪は重いが、歪みに気づかず放置していた私たちの責任も重い」


 小説でもそうだった。

 ジョルジュの一番の不幸は、家族の愛と関心が希薄なことだった。

 伯爵夫妻は貴族らしく家族への情が薄い。だが、ジョルジュはそうではなかった。本人に自覚があるかは不明だが、愛情に飢えて捻くれた。

 下らない悪行を重ねたのも、ユリアにのめり込んだのも、寂しかったからだ。ユリアだけが、ジョルジュの寂しさに寄り添ったから。


 それにしても、トリュフォー伯爵は親としての責任を取れるし、温情のある大人なんだな。もっと早く、ジョルジュの孤独と歪みに気づいてくれていれば、結果は違っていただろうか?


「ジョルジュはあの娘と共に、農民として一生を過ごさせる。二度と我が領からは出さない。ジョルジュの悪行に加担していた侍従たちにも厳罰を与える。

 ベルトラン子爵殿が求めるなら、慰謝料を増額する。だから生命だけは許してやって欲しい」


「……これだけ立派な父君がいて、どうしてあの愚か者は……」


 お姉様の瞳が怒りと嫉妬に燃えて揺らめく。しかし、しばらくして落ち着いた。


「わかりました。慰謝料は当初の金額で結構です。その代わり、この映像は当家でお預かりします。最低でも、私との婚約期間と同じ8年間はお預かりします。よろしいですね?」


 お姉様は、あらかじめ用意していた契約書に数行書き加えてサインした。


 ジョルジュやトリュフォー伯爵家が、ベルトラン子爵家やその係累を害すれば、王城に提出するか公表する事。

 そのような行為がない限り、預かった映像を悪用しない事、最初の取り決め以上の金銭や権利の要求をしない事、などが盛り込まれている。


 この映像は、大きな弱点だ。しばらくはトリュフォー伯爵家はベルトラン子爵家に頭が上がらないだろう。


 お姉様は、トリュフォー伯爵に契約書を差し出した。


 トリュフォー伯爵は、要求されると予想していたのだろう。動じることなく、契約書を隅から隅まで読む。


「……わかった。貴殿に従う」


 サインしたトリュフォー伯爵は、居住まいを正した。


「マルグリット・ベルトラン子爵殿、アナベル・ベルトラン子爵令嬢。改めて、ジョルジュと当家の愚行を詫びる。申し訳なかった」


 こうして、ベルトラン子爵家はトリュフォー伯爵家の謝罪を受け入れ、大きな弱味を握った。それで手打ちとした。


 少し後味が悪い結果になってしまったけど、これでクズ代表イケメンは完全に排除できた。

 お姉様の身の安全が確保出来たと思っていいだろう。気を取り直して、私たちは夜会に戻ろうとした。けれど……。


「私は失礼する。……そうだ。【協力者】が、貴女がたと話したいと言っていた。案内してもいいだろうか?」


 え?【協力者】……私と因縁のあるアレクシス・デュラン男爵令息が?



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