第2部 17話 愚者の独り言 後編(ジョルジュ視点)
ジョルジュはしばらく、さも憐れに見えるよう啜り泣いた。そして頃合いを見て懇願した。
「ああ、どうしてこんな事に……。これも僕が不甲斐ないせいだろうか……。お前たち、少しの間だけでいい、どうか一人にしてくれないか?これからについて考えたいんだ。逃げたりなんてしないから……」
「……」
侍従たちは無視だ。しかし、何回も哀願を繰り返すうちに、同情らしき表情を浮かべる者たちも出てくる。
ジョルジュは内心でほくそ笑み、言葉を変える。
「……せめて、見張りを一人にしてくれないか?こんな風に大勢で見張られてると落ち着かない。考えもまとまらないよ」
例の男がすかさず口を挟んだ。
「では、私が見張りましょう。他の方は手前の部屋で待機して下さい。逃げ出したとしても捕まえられます」
残りの侍従のうち二人が反対したが、「短時間なら問題ないだろう」と、言って押し通す。
こうして、ジョルジュと男は二人きりになった。
ジョルジュは礼服の中から小瓶を取り出し、男に渡しながら説明した。
「これは強力な睡眠薬だ。これの匂いを奴らに嗅がせろ。瓶の蓋をあけて中身を振りかけてもいい」
男は下品な笑顔を浮かべた。
「怖い薬をお持ちですねえ。本当は誰に使う予定だったんです?……はいはい。余計なことは言いません。見返りは期待していますよ」
その後。男は守備よく事を済ませ、ジョルジュは控室から出た。
男は「私はここに残って、侍従たちを縛ってから逃げます。しばらく身を隠しますが、見返りは必ず頂戴しますよ」と言った。
(ふん。見返りだと?ベルトラン子爵家が手に入れば幾らでも払えるさ。
しかし、どうせならもっと手伝わせたかったな。まあ、確かにあいつらを拘束しておかないと安心できないけど……)
「ジョルジュ様!」
大広間に向かっていると、ジョルジュの専属侍従が話しかけた。先ほどの男と同じく金でいう事を聞かせれる相手だ。
ジョルジュの専属侍従たちは、王城に到着するまでは一緒だった。だが、トリュフォー伯爵は入城を許さず、馬車止めで待機するよう命じていたのだ。
その時点で嫌な予感がしたものだ。それはともかく。
「僕の危機を察して来たのか。気が利くな」
「恐れ入ります。ある程度のご事情も把握してございます」
「流石はこの僕の専属侍従だ。頼もしいぞ」
(こいつは小金を掴ませればなんでもやる。さっきの奴より安上がりだ。なんて都合のいい展開だ。天が僕に味方しているに違いない)
「ジョルジュ様、こちらへ」
侍従は、すぐ側の控室に入った。誰も使っていないので鍵がかかっていないようだ。
入ってすぐ、侍従が耳元で囁いた。
「お喜び下さい。あの女の身柄は押さえています。例の薬も飲ませています」
先ほど使わせた睡眠薬を、この侍従にも持たせていた。ジョルジュは、それが功を奏したのだと狂喜した。
「そうか!よくやった!あの女はどこにいる?案内しろ」
「もちろんご案内します。ですが、どうされるおつもりで?」
「は?決まっているだろう?」
ジョルジュは醜悪な笑みを浮かべた。元が王子様めいた美形なせいか、まるで化け物になったようだ。
「マルグリットを犯すんだよ。そして王城の侍女か衛兵に現場を目撃させる。
未婚の貴族女性は純潔性を求められる。それを失い他者に目撃されれば、僕と結婚するしかなくなる。
【元婚約者に犯された傷物】より【愛する婚約者と一線を越えてしまった】とする方が、ベルトラン子爵家にとって痛手は少ないからな。
もちろん僕に逆らえなくなるよう、念入りに犯して辱めてやる」
女を犯したことは何度かある。ユリアにねだられ、彼女を虐めた女をこらしめる為にした。ただ、どの女も平民だ。貴族令嬢とは経験がない。
ジョルジュは舌舐めずりした。
(マルグリットは、少し見ない間にそそる女になった。嫋やかで上品な色気がある。おっぱいや尻は小さめだけど形が良さそうだし、肌はきめ細かくて触り心地良さそうだった。あの細い腰はゾクゾクするほど優美だ)
あの黒いドレスを引き裂いて胸や尻を揉みしだく妄想をし、ジョルジュは股間を膨らませた。
そして、結婚すればこちらのものだ。ベルトラン子爵家の財産が手に入る。
「ベルトラン子爵家を掌握したらアナベルも犯してやろう。あの頭空っぽのバカ女が。何を勘違いしたのか、淑女の真似事をして僕に恥をかかせやがって」
思わず舌打ちした。
アナベルは元から美少女だったが、健康になったためか更に美しくなっていた。胸も尻も大きめだ。
(それにしても別人みたいだった。おまけに聖騎士との婚約が内定しているだと?今までのバカ女ぶりは演技だったのか。つまり、僕を騙したんだな!
許さない。聖騎士とは別れさせて、あの顔がぐちゃぐちゃになるまで陵辱してやる。そして姉妹揃って僕とユリアに傅かせ、死ぬまで搾取してやろう。ああ、こいつら侍従や下男に下げ渡してもいいな)
ニヤニヤと妄想していると、侍従が心配そうな顔になった。
「しかしジョルジュ様、人手が足りません。上手くいくでしょうか?」
「大丈夫だ。僕にはこの薬がある」
懐から取り出した小瓶。濃いピンク色の液体が入っている。これは強力な媚薬だ。ユリアと楽しむ時にも使った事があり、効果はお墨付きだ。
「なるほど。確かにそれなら成功するかもしれません。しかし、本気でマルグリット・ベルトラン子爵を襲い、子爵家を乗っ取るおつもりですか?危険では?ご当主様に知られれば、どのような罰が下されるか……」
「うるさいなあ。危険?罰?ベルトラン子爵家を手に入らなければ僕は破滅だ。やらなきゃいけないんだよ!」
「そうですか。……残念です」
「は?……うわ!……んぐっ!」
ジョルジュはいきなり背後から羽交締めにされ、何かを飲まされた。そしてそのまま身体を運ばれ、奥にある小部屋の一つに放り込まれる。
絨毯の上に転がり、目を白黒させている間に扉が閉まる。
明るい。灯りが付いている。鏡台と姿見とクローゼットが見える。そしてどこかで嗅いだような甘い匂いがする。
「な?なんだ?一体なにが……」
当惑するジョルジュに、聞き覚えのある悩ましい吐息と甘ったるい声がかかった。
「……ジョルジュ?ジョルジュなの?」
振り返ると、壁に背中を預けて座る愛しい恋人が居た。何故かトリュフォー伯爵家のメイド服姿だ。
座っているとはいっても、スカートから白い脚を伸ばした乱れた姿勢。頬は紅潮し、悩ましい吐息がこぼれている。
「ゆ、ユリア?どうして此処に?それにその服は……なっ?!」
「はぁ……ジョルジュぅ……やっと来てくれた……」
ユリアは服のボタンを外しながらにじり寄る。エメラルドのような緑の瞳が潤んでる。
それは、ベッドの中で見せる表情……明らかに発情している。
「ゆ、ユリア、だ、駄目だ。いまそんな事をしている場合じゃ……ううっ」
ジョルジュの心臓が強く鳴り、股間を中心に身体が熱くなる。ユリアのたおやかな手が伸び、ズボンをいやらしく触る。
そしてようやく、先程飲んだ液体と部屋に充満した匂いの正体を悟った。
「ま、まて……!び、媚薬を……もられ……罠だ……ユリア……!」
「ジョルジュ……来て……」
服からのぞく豊かな胸がたゆんと揺れ、ジョルジュは何も考えられなくなった。獣のようにユリアに貪りつき、欲望のままことを進め……。
ガン!グシャッ!
頭に強烈な痛みが走って、完全に意識を失った。
この夜を最後に、ジョルジュ・トリュフォー伯爵令息は社交界から完全に姿を消した。
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