3話 まさかの展開
「は?今のアナベルが本当のアナベルだと?何を言っている?」
「アナベルちゃん!その話し方はなに!?可愛い貴女には似合わないわ!やめなさい!」
今の私を否定する両親。前世を思い出したため、確かに性格は変わってしまったかも知れない。
だけど、確かにこの世界に生まれて育った記憶がある。私は私だ。
「いいえ。やめません。……マルグリットお姉様」
「アナベル……」
私はお姉様の目を見つめ、想いを込めて言葉を紡ぐ。
「マルグリットお姉様は、誰よりも私を慈しんで下さりました。誰よりも領地経営と家政に勤しみ、新しい特産品を生み出して、領地を盛り立てて下さった。そのお陰で私は今日まで生き延び、聖女ミシエラ様の治療を受けることができました。
長い間、ありがとうございました。
そして、改めて謝罪します。お姉様に酷い事をして申し訳ございませんでした」
「アナベル……そんな風に謝らないで。私は貴女の病気を治して、また仲良く過ごしたかっただけなの。むしろ私がお礼を言うべきだわ。治ってくれてありがとう」
「お姉様……」
なんて慈悲深く優しい人だろう!
泣いてすがりそうになるのを必死にこらえた。
そんな資格、私にはな……。
「お待ちください。マルグリットさんが領地経営と家政に勤しんでいた。と、仰いましたか?何年間も?」
鋭い声は聖女ミシエラ様のものだ。真剣な眼差しで私を見ている。
「え、ええ。少なくとも8年は越えていたと思います」
「8年も……。では、マルグリットさんは領地経営と家政に、どの程度関わっていましたか?」
「私の知る限りでは、社交以外の全てを担っていました。お姉様、そうよね?」
「はい。その通りです」
お姉様はどんな仕事をしていたか説明した。
領内各地への視察、産業と公共事業の采配、税収と記録とその記録の確認、国に提出する書類の作成、屋敷内の采配、食料などのストックの購入と資産の管理、他家や商会との手紙のやり取りなどなど、気の遠くなりそうな量だった。
話すほどに、聖女ミシエラ様の顔が険しくなっていく。側から聞いても酷い話だよね。
「ベルトラン子爵、夫人。本当ですか?」
「それが何か?この不細工でも出来る仕事を与えてやっているだけです。当家にタダ飯ぐらいは要りませんからな!」
タダ飯食いはお前だ!
小説で読んでた時も思ってたけど、お父様腹立つなあ!
「ぐえ!」
「ぎゃあ!」
怒りでクッションを投げつけようとしたけど、それより早くルグラン様がお父様とお母様の背後に回って床に跪かせた。
流石は聖騎士!素早い!お父様達ざまぁ……いや、なんで?
「痛い痛い!野蛮人!離してよ!」
「き、貴様!いきなり何をする!」
本当だよ!ルグラン様何してるの!?
確かに両親は、お姉様に酷いことをしているけど……。
「ベルトラン子爵、夫人。貴殿らには王国貴族法違反の嫌疑がある」
「王国を護る聖女ミシエラと聖騎士エリック・ルグランの名において、貴方がたを拘束し貴族院による調査を申請します」
「お、王国貴族法違反?なんのことだ?」
「私たちを罪人扱いする気!?ヒッ!」
聖女ミシエラ様とルグラン様の目が、氷よりも冷ややかに刃よりも鋭くなった。こ、怖いけどカッコいい!
やっぱり【聖女はドアマットを許さない】の、聖女と聖騎士は最高だぜ!
いや、そんな場合じゃないけど!王国貴族法違反って何!?
「はぁ……。今の会話でわかりませんか?それにマルグリットさんは16歳。未成年ですよ」
「そ、それが何だと言う……あ」
両親の怒りで紅潮してた顔が、一気に真っ青になった。どういうこと?確かに、この国で成人は17歳。16歳のお姉様は未成年だけど……。
「王国貴族法では、領主が領地経営を放棄することと、未成年者に領地経営をさせることを禁じています。
やむおえない事情で当主が領地経営を行えず、未成年者が領地経営に関わる場合は、貴族院の審査と国王陛下からの認可が必要です。そして、認可されたことを公表しなければなりません」
「俺たちは子爵家を調べたが、マルグリット嬢が認可を受けたという情報はなかった。領地経営の主だった仕事は、全てベルトラン子爵が行ったことになっている。
ベルトラン子爵、夫人、以上が事実ならば、貴方がたには厳しい罰が下るだろう。
最低でも、爵位の剥奪と労役刑が課せられるのは間違いない」
え?そんな法律があるの?知らなかった。
そういえば、小説の両親は借金苦で破滅したけど、こんな一文があった。
『ベルトラン子爵夫妻は、マルグリットへの虐待をはじめ様々な罪を犯していた』
つまり、捜査の手が伸びる前に借金苦で破滅したと言うこと?
「未成年が家政を担うことに関しては、禁止する法はありません。しかし、『貴族家夫人が、正当な理由なく家政の大半を放棄している』ことは批判されます。
また、子爵と共犯の疑いがありますので、同程度の罰が下るでしょう。
何より、貴方がたは長年に渡ってマルグリットさんを虐待していた。許し難い蛮行です」
「は?虐待?大袈裟な。ただ少し教育してやっただけで……」
「お黙りなさい!なにが教育ですか!先ほどから実の娘を暴言で貶め、暴力をふるおうとしていることが、虐待の何よりの証拠です!」
「虐待もまた懲役刑が課せられる!覚悟するんだな!」
ヒェー!かっこいいけど、迫力すごい!私が怒鳴られたんじゃないのに怖!
雷に撃たれたかのような威圧感に、私とお姉様は手を取り合った。
「さ、先程の発言は……い、言い間違いだ。り、領地経営は、す、全て私が行っていた」
「そ、そうです。ま、間違いありません」
両親はガタガタ震えながら見苦しい言い訳をする。その無駄な根性があるなら、真面目に働けば良かったのに。
「アナベル嬢とマルグリット嬢の証言があるが?」
「し、証拠は、ない。ぜ、全部、嘘だ」
「そ、そうよ。ま、マルグリットがついた、う、嘘よ。あ、アナベルちゃんは、騙されてるの」
調査すれば証拠なんていくらでも見つかるし、嘘つきはマルグリットお姉様の成果をかすめ取っていた貴方達でしょうが!
余計な事しか言えないなら、もう黙っときなさいって!
両親に呆れていると、さらなる追い討ちがかかった。
「証拠ならございます」
「はい。すぐにご用意できます」
「なんですって!?」
「お、お前たち!裏切る気か!」
部屋の隅に控えていた執事と侍女長だ。
そういえば、お姉様は大半の使用人と領民から絶大な信頼と敬意を受けていた。
彼らはお姉様の境遇を悲しみ憤っていたから、これを機に両親の罪を告発する気ね。
流石はお姉様!人望がある!まあ、誰よりも有能で優しくて可憐だから当然だけど!
などと考えている内に、執事長は書類の束を、侍女長は手紙の束を用意して聖女様たちに渡した。
「子爵の名がサインされている書類と、夫人の名がサインされている手紙の筆跡が、極めて似ているな」
「似ているどころか、明らかに同じですよ」
「ふ、夫婦は似るものです!長く連れ添えば、字も……」
「子爵、宝玉果の果樹園がある村の名はなんだ?」
「は?」
「宝玉果は、この領の新しい特産品だ。栽培に成功したとされる子爵ならば、何処の何と言う村で育てているか、知っているはずだ」
「そ、それは……ああ!思い出した!南部のシュドゥー村だ!」
シュドゥー村は、領内で一番果物の生産量が多い村だ。
お父様は『此処しかないだろう!』と、言わんばかりに自信満々だ。
だけど……。
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