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【第2部完結】欲しがる妹アナベルは『ざまぁ』されたい!  作者: 花房いちご
第2部

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第2部 11話 静かなる断罪 前編

 その後も発表が続く。最後に、シャンパンか果実水の入ったグラスが全員に配られる。私とお姉様は未成年なので果実水だ。

 ちょっと残念。


「今宵は大いに楽しんで欲しい!乾杯!」


 乾杯後、国王王妃両陛下が中央に歩み出てダンスをする。

 王族によるファーストダンスの後は自由だ。

 貴族たちはそれぞれ思い思いに動く。挨拶回りをしたり、パートナーらしき人と踊ったり、歓談したり、食事を楽しんでいる。


 ただしその大半が、社交という名の戦いの真っ最中だ。


 お姉様が私たちに話しかけた。


「アナベル、ルグラン様。行きましょう」


 お姉様の黒真珠の瞳には、強い決意の光が宿っている。


「はい。お姉様」


 私たちもまた、戦に打って出た。



◆◆◆◆



 私たちは計画通り、まずトリュフォー伯爵家の面々に挨拶に行く。

 私はルグラン様に、お姉様はドゴール監査隊長にエスコートされ、彼らが居る場所に向かう。割とすぐに見つかった。

 彼らの顔を知っているお姉様が教えてくれた。


「あちらにいる方々よ。今日は、伯爵夫妻と三兄弟全員がご出席のようね」


 三男のジョルジュ・トリュフォー伯爵令息以外とお会いするのは初めてだ。

 トリュフォー伯爵は壮年の紳士で、やや眼光が鋭い。伯爵夫人は柔和な笑みを浮かべているが、厳格そうな雰囲気がある。

 お二人に似た青年二人が長男と次男だろう。それぞれ、婚約者らしき令嬢がパートナーになっている。


 三男のジョルジュ・トリュフォー伯爵令息だけは相手がいない。どこか所在なさげだ。


 というか、家族の輪に入れてない?


「マルグリット!」


 令息が私たちに気づき、歩み出た。シャンデリアの光を受け、サラサラの金髪と鮮やかな青色の瞳が輝く。


「マルグリット!襲爵おめでとう!今日の君は綺麗だね。僕がエスコートするに相応しいよ」


 このクズ。本当にイラつくし嫌いだな。

 さも親しげにお姉様に声をかけ手を差し出す様にイラッとする。というか、お姉様をエスコートしてるドゴール監査隊長が見えないの?

 それに、相変わらず見た目だけはキラキラしてるけど、言葉の端々に傲慢さが滲(にじ)んでる。

 僕に相応しい?お前がお姉様に相応しいとでも思ってるの?


「……」


 お姉様は無視。片眉を上げ扇子で口元を隠し、不快感をにじませた。ドゴール監査隊長も無言だ。


「マルグリット?どうしたんだい?」


「ジョルジュ、みっともない真似はやめろ」


「父上、何をおっしゃっているのですか?」


 トリュフォー伯爵が軽く叱責し、やれやれと言いたげに顔をしかめた。他の家族も、三男の失態に呆れた様子を隠さない。


「マルグリット・ベルトラン子爵殿は今代の子爵だ。お前は伯爵令息にすぎん。まだ婚約者とはいえ、社交の場ではわきまえよ」


「そうですよ。身分が上の者に対しては、話しかけられるまで声を発してはならない。礼儀の基本ですよ。貴方はこれまで何を学んでいたのですか?」


「ジョルジュ、父上と母上の言う通りだ。お前は我が家の品位を下げるつもりか?」


 家族から責められ、トリュフォー伯爵令息の顔がビシッと強張る。

 ふーん。この反応。令(・)息(・)だ(・)け(・)が(・)何(・)も(・)知(・)ら(・)さ(・)れ(・)て(・)な(・)い(・)の(・)ね(・)。(・)


「ベルトラン子爵、愚息の無礼を詫びる」


「トリュフォー伯爵閣下の謝罪を受け入れます」


「マルグリット・ベルトラン子爵の寛容に感謝する。改めて子爵の襲爵と、アナベル・ベルトラン子爵令嬢が陛下にお認め頂けたことをお祝い申し上げる。

 ああ、ドゴール伯爵も久しいな。挨拶させてくれ」


 トリュフォー伯爵は私たちに謝罪し、改めて挨拶して家族を紹介した。

 令息は心ここに在らずといった様子で雑な挨拶だったけど、他は流石は伯爵家。美しい挨拶をしてくれた。私たちも挨拶を返し、ルグラン様を紹介する。


「ほう。ベルトラン子爵令嬢は、聖騎士ルグラン殿と婚約するのか」


「美男美女で良くお似合いですこと」


 私たちは気品を損なわない程度に笑みを浮かべ、寄り添った。


「恐れ入ります。ドゴール伯爵閣下に良き縁を結んで頂きました」


「アナベル・ベルトラン子爵令嬢は素晴らしい淑女です。この縁談は、私にとっても幸運です」


「仲睦まじいだろう?私が縁を結ばなくとも、いずれ二人は婚約していただろう」


「はっはっは!それはめでたい!」


「アナベル……」


 令息が、そこでようやく気づいたと言いたげに私を見た。


「ま、まさか、君があのアナベルなのか?」


 は?今更?さっき挨拶したのに?

 まあ、驚くのはわかる。少し前までの私は【姉の物を欲しがる妹】で【都合の良い馬鹿】だったものね。

 今の私は違う。まだまだ研鑽が必要だけど、夜会に出れるだけの所作を身につけた淑女。そして、ベルトラン子爵令嬢にして、聖騎士エリック・ルグランとの婚約内定者。


 私は片眉を上げ、扇子を広げて口元を隠す。優美な笑みを浮かべつつ、皮肉を混ぜて教えてやろう。

 もちろん、馴れ馴れしい名前呼びを止めろと言うのを忘れずに。


「ええ。私は、マルグリット・ベルトラン子爵が妹アナベル・ベルトランでございます。トリュフォー伯爵令息様。先ほどご挨拶したはずですが、もうお忘れでしょうか?

 それと、私のことはベルトラン子爵令嬢とお呼び下さい。名前を呼び合うような仲と思われては迷惑です」


「なっ?!ど、どうしたんだい?アナベル?君、そんな話し方なんて……」


「彼女を名前で呼ぶのはやめろ。そう言われているのが理解できないのか?」


 ルグラン様とお姉様が私の前に出て、令息を軽く睨んだ。


「ジョルジュ・トリュフォー伯爵令息。先ほどから少し無礼が過ぎるのではないか?」


「ルグラン様の仰る通りね。婚約者でもない令嬢を公の場で呼び捨てるだなんて、礼儀知らずにもほどがある。我が妹アナベルを軽んじないで頂きたいわ」


 きゃー!二人ともカッコいい!威圧感がすごい!令息はたじたじだ。


「は?我が妹?君たちそんな仲じゃ……いや、その……も、申し訳ございません」


 情け無い様子に、伯爵が頭に手をやり溜息をついた。


「ジョルジュよ。長年の計画が実を結び、仮の婚約が終わるのが嬉しいのはわかる。しかし浮かれ過ぎだ。

 ベルトラン子爵、ベルトラン子爵令嬢、重ねて申し訳ない。ベルトラン子爵家にとってめでたい席を汚してしまった」


 お姉様は柔らかく微笑む。


「トリュフォー伯爵閣下。閣下の責ではございません。トリュフォー伯爵令息の謝罪を受け入れますわ。令息には、長い間協力して頂きました。ある程度の無礼は水に流しましょう」


「き、協力?」


「ええ。私の窮状を知ったトリュフォー伯爵閣下が、私を支援するため貴方と婚約させた。貴方は私の婚約者という立場を上手に使い、当家に訪問している間は前子爵夫妻から危害を加えられないようにしてくれた。また、トリュフォー伯爵閣下と連携し、アナベルが告発するのを助けた。

 もちろん無償ではないけれど、私もアナベルもトリュフォー伯爵家と貴方の協力には感謝しているわ」


「お姉様の仰る通りです。以後、わきまえて頂ければ構いません」


「うむ。子爵と令嬢の寛容に感謝する」


「いいえ。トリュフォー伯爵家には、こちらこそお礼を申し上げなくては」


「いやいや。ジョルジュと婚約している間、ベルトラン子爵領の作物を優先的に輸出してもらった。我が領は、知っての通り農業が未発達だった。助かったよ。

 その間に開墾を進め、現在では農産物の生産量がかなり上がった。当家としても良い取引だった。予定通り婚約を解消しても問題ない」


「それは重畳。喜ばしいことですわ」


 令息のか細い声が割り込む。


「ち、父上。ど、どういう事……ですか?協力?取引?優先的な輸出?な、なんの話です?

 そ、それに、まるでマルグリ……ベルトラン子爵と僕の婚約が解消されるような言い方を……」


「ジョルジュ、さきほどから冗談がすぎるぞ。お前とマルグリット・ベルトラン子爵の婚約は、前子爵夫妻の虐待から子爵を守るためのものにすぎん」


 伯爵夫人も頷く。


「そうですよ。優秀なベルトラン子爵が襲爵したら、貴方との婚約は解消する。以前からそう決まっていたでしょう?」


「は?」


「しかしまさか、前子爵夫妻があそこまで貴族法違反を犯していたとは知らなかった。驚いたよ」


「ええ。知っていれば、もっと早くベルトラン子爵と子爵令嬢をお助けできたのに。残念ですこと」


 トリュフォー伯爵夫妻は、しれっと「あらかじめ決められていた台詞」を言い続ける。お姉様と私は本心からそう言っているように演技して、お気持ちにお礼を言った。


 令息は呆然としている。どうやら、すでにここまで話がついてるとは思ってもなかったようね。


 ねえ、ジョルジュ・トリュフォー伯爵令息。「マルグリットとの婚約が無くなるのはまずい。だがまだ間に合う。夜会で接触して思いとどませるか、既成事実を作れば問題ない」とでも思っていた?

 けど、そんな訳ない。


 そう、お姉様は令息との婚約解消について、すでにトリュフォー伯爵と話をつけている。


 貴族令息令嬢の婚約結婚は、貴族家当主に決定権がある。だからお姉様は、3日前にベルトラン子爵を襲爵してすぐ、トリュフォー伯爵に接触したのだ。



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