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3話 安堵と課題

 時は現在に戻る。

 ルグラン様は、がっかりした様子で愚痴った。


「アナベル嬢と二人きりになれない。辛い。手を繋いだりキスしたい」


「聖騎士様の癖に欲望ダダ漏れじゃん」


 そんなに二人きりになって触ったりキスしたいの?

 確かに二人きりではないけど、侍女たちは会話が聞こえない距離にいてくれているのに。

 ……色々溜まってる?

 思わず冷ややかな目になってたらしい。ルグラン様は姿勢を正して弁明する。


「誤解だ!キス以上は結婚までしない。君に惚れてもらうため恋人らしいことをしたい。それだけなんだ」


「キリッとした顔だけど説得力が無い」


「ぐうっ!手厳しい!」


 ルグラン様は、胸を撃たれた仕草をして肩を落とした。大袈裟すぎない?

 ……まあ、私もイチャイチャしたい気持ちがあるし、求められるのは満更でもないけど。


「ルグラン様、雑談はここまで。勉強の続きをするから」


「じゃあ、せめてエリックって呼んでくれ」


「ファーストネーム呼びはまだ駄目だって。私たちはまだ婚約してないし、私は未婚で無職の令嬢だよ。騎士様とタメ口で話してる時点でギリギリなのに」


「……わかってはいるけど、悲しいなあ」


 だらだら話していると、執事長が入って来た。


「お勉強中に失礼します。アナベルお嬢様、ルグラン様、執務室へお越しください。マルグリットお嬢様がお待ちです」


 私とルグラン様はどちらともなく目を合わせた。

 私だけでなくルグラン様も?裁判に動きがあったのかな。

 ルグラン様の瞳が輝く。


「婚約の許可が出たのかもしれない」


「それは無いでしょ。さっさと行くよ」


 何だかなあ。ルグラン様って、つくづく面倒なイケメンだなあ。なんでこんなに私に執着?熱愛?してるんだか。

 ……嫌じゃないけど。むしろ嬉しいけど。

 などと惚気つつ執務室に向かう。そして予想通りの話と、予想外の話を聞いた。



 ◆◆◆◆◆◆



 執務室には、お姉様とドゴール監査隊長ら3人がいた。

 いつかのように、テーブルをはさんで3対3で向かい合って座った。

 ドゴール監査隊長は、人払いをしてから厳かに話し出す。


「君たちの両親の判決と、君たちの今後が決まった。正式に判決が下りて公示されるのは、今から一ヶ月後だ」


 お父様とお母様の裁判が終わる。結審で、二人に対する判決と共に、私たちの今後について言い渡されるそうだ。

 ただこれは、広く国内に公示する意味が強く、すでに判決内容も私たちの今後についても決まっている。

 当事者である私たちは、あらかじめ教えてもらえるそうだ。


「君たちの両親は、様々な法を犯した。身分剥奪のうえ労役付きの無期懲役刑を受ける。

 死刑判決もあり得たので、まだ温情がある判決だ。もちろん、判決と同時に君たちとの絶縁が成立する。

 君たち二人は、無罪放免だ。貴族身分を失わずに済む」


 ホッとした。隣に座るお姉様と手を取り合って微笑む。

 薄情かもしれないが、両親と正式に縁が切れて嬉しい。

 また、両親の判決については、自業自得で同情出来ない。慈悲深いお姉様も両親を見捨てたのだろう。何も言わなかった。


「そしてベルトラン子爵家は、マルグリット嬢を当主として存続することが決まった」


「ほ、本当ですか!?」


 お姉様は叫ぶようにたずねた。

 ジャコブ監査官様とモロー監査官様が、優しい笑みで補足してくれる。


「マルグリット嬢。君の領地経営と家政の手腕が評価されたんだ」


「誇りなさい。貴方は国王陛下から、ベルトラン子爵家当主であり、ベルトラン子爵領領主に相応しいと認められたのです」


「わ、私が……っ!」


「お姉様!よかったですね!」


 お姉様は感激して泣いた。私も嬉しい。


 ただし、お姉様は未成年だ。成人するまでは、引き続きドゴール監査隊長ら監査官が滞在し、必要な教育と指導を受けることとなった。

 もちろん私も、子爵令嬢に相応しくなれるよう引き続き教育を受ける。


「マルグリット嬢は、領地経営の手腕が卓越しています。

 最たるは宝玉果(ジュエルピーチ)ですね。新しい特産品として定着させた。これはマルグリット嬢が生産方法を確立し、子爵領内外の商会と関係を良好に保てていたのが大きい。

 アナベル嬢は、砂が水を吸うように知識を吸収していますね。読み書き、歴史、法律などの一般教養の習得は順調です。所作、ダンス、話術、算術は苦手なようですが、日々改善されています。

 また、お茶の淹れ方、テーブルセッティング、茶菓子の選び方は卓越しています。

 将来的には、貴族家の家政を担えるでしょう」


 褒められて舞い上がりそう。だけど、次の瞬間に落とされる。


「ですが……お二人には、子爵と子爵令嬢に必要な、ある物が足りません」


 お姉様と顔を見合わせる。お姉様は嬉し涙を拭い、監査官様がたに向き直った。


「私たちに必要なある物……とは、なんでしょうか?」


 ドゴール監査隊長は重々しく頷いた。


「うむ。君たちに足りないのは、社交の経験と貴族との人脈だ。

 これは君たちのせいではない。通常は、幼い頃から他の貴族と交流して人間関係を築くものだ。それを怠った元ベルトラン子爵夫妻には怒りしか感じない」


「僕もそう思います。

 才能豊かな君たち姉妹は、本当なら豊かな人脈を築けていたはずだ。アナベル嬢は、魔炎(まえん)病に罹っていたから難しかっただろうけど、それだって無駄遣いなければもっと早く治せていた。本当に嘆かわしいよ」


「私も同意します。最も、元ベルトラン子爵夫妻のだけが原因ではありませんが」


 ここで、ルグラン様が何かに気づいた顔になった。


「そうだ。君たちの親類と、お義姉さ……マルグリット嬢の婚約者一家は何をしていたんだ?普通なら、元子爵夫妻とベルトラン子爵家の異常性に気づくのでは?」


 あれ?言われてみればその通りだ。ただ、心当たりはある。


「えっと、私たちのお祖父様とお祖母様……前子爵夫妻がご健在の頃は、親類とはお付き合いがあったけど……亡くなられてからは、その……」


 お姉様が表情を曇らせながら説明する。


「私の扱いや領地経営について、常識的な助言をする方ばかりでしたが、両親が嫌って縁を切りました。ベルトラン子爵領の領地経営に携わっていた方々もいましたが、両親はよほど暴言を吐いたらしく、全員怒って領を出たと聞いています。

 それだけでなく、祖父母の代まで寄親だった侯爵家とも絶縁しています。近隣の領主とも折り合いが悪く、最低限のお付き合いしかありません」


 そのせいでベルトラン子爵家は、一時かなり困窮したという。お姉様が領地経営で手腕を発揮しなければ、どうなっていたかわからない。

 本当にあの両親はろくなことをしない。恥ずかしい。

 話しているうちに段々気まずくなってきた。お姉様も同じらしく、二人でうつむいてしまう。

 ドゴール監査隊長様の眼差しが、とても気の毒そうになる。


「君たちが恥じることではない。では、マルグリット嬢の婚約者とその家族はどうだろうか?ベルトラン子爵家の実態に気づいていたか?」


 確信があったので私が答えた。


「ジョルジュ・トリュフォー伯爵令息様は、我が家の内情をご存知だったと思います」


 小説でもそうだったし、現実でもそうだ。間違いない。

 クズ担当イケメンこと、お姉様の婚約者ジョルジュ・トリュフォー伯爵令息。

 彼は両親に虐待されていたお姉様でなく、両親に甘やかされていた私に取り入ろうとしていたのだから。



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