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13話 聖騎士は欲しがる妹と婚約したい(エリック視点。第1部完。2部に続く)

「俺とミシエラが恋仲?本気で言ってるのか?」


「ですよねえ。私も耳を疑いましたよ。まあ、色々と思惑があるようですが」


 俺たちと面識がない貴族……特に、ミシエラと第二王子の婚約を反対していた者たちが広めているらしい。

 娘を第二王子妃に推していた、あるいは息子にミシエラを娶らせようとしていた貴族たちだ。噂によって婚約解消まで追い詰められれば良し、そこまで出来なくても嫌がらせになる。そんな意図があるそうだ。

 社交界に噂話は絶えないもの。いちいち気にしていたらやっていけない。だが、この噂は広まるのが早く、本気で信じている者もいるらしい。


「すごい妄想だな。あり得ない」


「ですよね。初代聖女と聖騎士が結ばれた伝説を引き合いにしてるそうですが、無理があります。私たちの関係は家族のようなものですし、なによりお互いにときめきませんし」


「だよなあ。考えたこともない」


「私もです。ですが、噂を信じる人もいます。すでに噂の火消しに取り掛かってはいますが、私たちが接触する機会も減らした方がいいですね。

 今だって二人きりではありませんが、ご自分の都合の良い物しか見えない、聞こえない方が、とても多いようですし」


 その通り。ここはミシエラにあてがわれた客室だが、部屋の隅にはミシエラの身の回りの世話をする神官たちがいる。

 『二人で話したい』と言ったので口を挟まないが、俺たちの会話が聞こえる距離にいる。これはミシエラの身を守るためと、醜聞を避けるのだ。

 俺たちは男女であり、それぞれ身分がある。教会に入って以降、緊急時以外で二人きりになったことはない。

 少し窮屈だが、それがこの世界のこの国の常識だし、ミシエラの名誉のためだ。


 だが、アナベル嬢とは二人きりで会いたいし話したい。

 あと、早く婚約しないと駄目だ。俺以外にも求婚者が現れるだろう。あんなに可愛くて一生懸命なんだから。

 そう。一生懸命なのだ。これまでの遅れを取り戻すため、自発的に勉強をはじめているし、今の段階で出来ることを探して取り組んでいる。

 頑張り屋で健気だ。守りたい。


「絶対に、アナベル嬢と婚約する。どんな手を使ってもだ」


「怖。急に何ですか?エリック、恋に浮かれるのはいいですが、聖騎士として恥じない程度にしなさいね。暴走したら止めますからね」



◆◆◆◆◆◆



 貴族子女の婚約は、当主に決定権がある。

 俺は、俺自身がルグラン騎士爵家当主なので問題ない。アナベル嬢は、ベルトラン子爵が決定権を持っているが、犯罪者として捕まったのだから除外する。


「やはり、マルグリット嬢に申し出るのが筋だろう」


 俺はミシエラと共に、マルグリット嬢に交渉した。


「アナベルとルグラン様が婚約……ですか」


「そうだ。俺はアナベル嬢に惹かれている。為人が好ましいし、あの根性は得難い。人生の伴侶は彼女がいい」


「マルグリットさん、急な話で驚いているとは思います。しかし、エリックは真剣です。また、彼が誠実で信頼できる人だということは、聖女ミシエラの名にかけて誓います。

 前向きに考えていただけないでしょうか?」


「ありがたいお話ですが……」


 とても複雑な顔をされたし渋られた。どうも、マルグリット嬢はアナベル嬢と引き離されると思っているようだ。

 無理に引き離す気はないことを説明し、いかに俺がアナベル嬢に惹かれているか、この婚約にメリットがあるか、心を込めて話した。

 10日に渡った交渉の結果、マルグリット嬢から『アナベル嬢にプロポーズする許可』をもらった。


「決めるのはアナベルです。アナベルが嫌がるようなら諦めて下さい。大切な妹なんです」


「ああ。肝に銘じる」


「マルグリットさん、安心して下さい。エリックが暴走したら私が止めます」


 アナベル嬢はもちろん、マルグリット嬢にも信頼されるよう努力しないとな。

 後は、アナベル嬢にプロポーズか……。

 出会ったばかりなんだよな。

 恐らく嫌われてはいない。むしろ好感は抱かれているだろう。


 今日だって、わざわざ茶菓子の差し入れをして労ってくれた。柔らかな笑みを思い浮かべる。


 昼すぎ。俺はミシエラと別行動していた。

 主に、貴族院の役人たちとの打ち合わせをしていた。打ち合わせが終わり執務室を出たところで、アナベル嬢に応接室に案内される。

 なんと、控えている侍女ではなく本人が茶を淹れてくれた。


「どうぞ、お召し上がりください」


「いただくよ。……良い香りだ。君はお茶を淹れるのが得意なんだな」


「ありがとうございます。7歳までは淑女教育を受けていましたので、これくらいなら何とか……」


「これくらい。じゃない。立派な特技だ」


「っ!……嬉しいです」


 お世辞抜きの言葉にはにかむ笑顔。眼福だった。



 だがしかし、現時点でプロポーズを受ける程の好感度だろうか?もし断られたら?断られなくても、『お互いを知る期間を設けましょう』と言われたら?


 その間に、別の男がアナベル嬢と婚約したら?


 焦ったからだろうか。俺の脳裏に、普段なら絶対に思いつかないし、やらない策が浮かんだ。

 アナベル嬢の会話を都合よく誘導し、ミシエラとマルグリット嬢に聞かせる。正義感の強いミシエラにも、会話を誘導することは内緒だ。バレたら絶対反対される。


「卑怯な手だ。だが、どうしてもアナベル嬢と婚約したい」


 こうして、俺は騙し討ちに近い形でプロポーズを成功させたのだった。

 賭けだった。嫌われて振られるかもしれないかったが、アナベル嬢は寛大だった。それに、俺との婚約は満更でもないらしい。

 彼女のこれからは過酷かもしれないが、俺が守り通してみせる。

 そしていずれ、俺のアナベル嬢に対する想いと同じくらい、俺のことを好きになってもらう。


 まずはアナベル嬢の『過剰ざまぁ』回避だ。

 その原因たちは、一癖も二癖もあるイケメンだという。


 イケメンか。場合によっては、全員闇に葬ろう。


 俺は聖騎士にあるまじき決意をした。

 まるで初恋に浮かれた子供だなと、自嘲したのだった。



 第1部 おしまい。第2部に続く。

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