11話 聖騎士エリック・ルグランと欲しがる妹アナベル(エリック視点)
数日後。大司教猊下が到着した。俺とミシエラ、そして今まで【鑑定】を受けれなかった子供達は【鑑定】を受けた。
ミシエラは聖女、俺は聖騎士の適正があった。しかも、かなり適正も魔力も高いと鑑定された。
村から出て中央教会に行かなければならない。
聖女であるミシエラは強制だが、俺の場合は選択権がある。どうするべきか考えた時、一番心配なのは母のことだった。
鑑定を受けた日の夜。居間で向き合って話し合った。母は落ち着いた様子で話す。
「私のことなら心配はいらないわ。貴方はとても賢くて強い子。きっと、村から出てもしっかり生きていけるでしょう。
……だけど、聖騎士様のお仕事はとても危険よ。お断りして欲しい気持ちもあるわ。
エリック、貴方自身はどうしたいのかしら?」
「俺は……」
真っ先に浮かんだのは、どこかに居るかもしれない転生者のことだ。このまま村に居るより、中央教会にいた方が探しやすい。
また、聖騎士候補になれば支度金などが給付される。ミシエラの分と合わせれば、村全体を豊かに出来る。
そうだ。ミシエラだ。あいつは村以外の世界を知らない。心が強い子ではあるが、見知らぬ場所に一人だなんて不安だろう。
それに。
「母さん。俺は聖騎士を目指すよ。外の世界に行って、色んなことをしたい」
それに、冒険の予感がしてワクワクする。自分の力を試したくて仕方ない。
アラフォーの記憶があっても、俺自身はまだガキなんだろう。なら、ガキらしく挑戦しないとな。
母は少しだけ寂しそうな表情を浮かべたけれど、すぐに誇らしそうに笑って抱きしめてくれた。
「エリック、行ってらっしゃい。帰りたくなったら、いつでも帰って来なさいね。貴方が聖騎士様になっても、ならなくても、ここが貴方の故郷よ」
◆◆◆◆◆
俺とミシエラは中央教会に入り、それぞれ修行を重ねた。
俺は5年後12歳で聖騎士に、ミシエラは6年後10歳で聖女に認定された。
大聖堂での聖女就任式にて、俺はミシエラから任命を受けた。
窓から光差し込む神々しい空間。その中心に立つのは三人。
新たなる聖女ミシエラ、ミシエラを聖女に任命し祝福する大司教猊下と国王陛下だ。
大司教猊下が厳かに述べる。
「新たなる聖女ミシエラよ。王国を護る盾にして癒し手よ。そなたの剣を選ぶがいい」
「かしこまりました。……聖騎士エリック・ルグラン。前へ」
名を呼ばれた俺は歩み寄り、その足元に跪いた。
「エリック、貴方を私付きの聖騎士に任命します。その剣と魔法で、魔獣を倒し王国の民を守りなさい」
「はっ!この身命をかけて、務めを果たします!」
ミシエラはこの後も、聖騎士と神官を十数名を指名し、正式に聖女様となった。所作も口調も改めた。孤児院育ちだと舐められないようにする為だそうだ。
聖女見習いの頃から優れた才能と美貌で頭角を表していたが、聖女となってからは信奉者が増えるばかりだ。
でも、中身はあまり変わってない。好奇心いっぱいで元気で、自分の意見を持っていて、正義感が強く行動力がある。
つまり、ちょっとお転婆な女の子だ。
俺たちミシエラ付きの聖騎士や神官しかいない場所だと、態度を崩すし本音をもらす。
そしてそのカリスマ性と行動力と正義感で、思いがけないことをする。
まさか、俺たちの村にまつわる陰謀を明らかにしたり、自分の出自を利用して大貴族を滅ぼしたり、魔獣退治のかたわら虐げられている人々を積極的に助けたり、なんやかんやで第二王子殿下と恋に落ちて婚約するとは思わなかったが。
「あのお転婆が、綺麗になったなぁ」
俺が16歳、ミシエラが13歳。
ミシエラと第二王子の婚約を祝う宴にて、俺は感動して泣きかけた。
「エリックったら!お爺ちゃん臭いですよ!次は貴方が婚約者を見つける番ですからね!」
華やかにドレスアップしたミシエラが笑う。
「お爺ちゃん呼ばりはやめろって。……ミシエラ、幸せになれよ。殿下、どうかミシエラをよろしくお願いします」
金髪碧眼の王子は、優しい美貌に強い決意を表して頷いた。
「義父殿……ではない、ルグラン殿。私の全身全霊をかけてミシエラを幸せにしてみせる。任せて欲しい」
「二人とも、まだ結婚の日取りも決まっていないのに大袈裟ですよ」
それからも、なんだかんだで俺とミシエラは聖騎士と聖女として共に働いた。
聖女の仕事は大きく二つ
王都の中央教会にて国を守る結界を維持する仕事と、各地を巡業して魔獣を倒し人々を癒す仕事だ。
聖騎士は、聖女の護衛と魔獣討伐を主に担う。
ミシエラは主に巡業を担当し、俺たち聖騎士に祝福を与えて魔獣を討伐させ、神官たちと共に人々を癒した。
そして俺が17歳ミシエラが14歳になったある日、ある領に行くことになる。
例によって、魔獣討伐と人々を癒すためだ。とはいえ、聖女の力も無尽蔵ではない。癒す対象には制限がある。
魔獣の被害者は最優先で無償で受けれる。しかし、それ以外の患者は高額の治療費が必要なのだ。
また、本人や家に問題ないかも調べられるし、申し込み数も多いため、治療を受けるまでかなり待つ。
だから、アナベル・ベルトラン子爵令嬢の治療は、もっと後回しになるはずだった。
ある人物が、教会へ働きかけたから早まった。その辺りの事情を説明すると長くなるので省くが、俺たちは上から色々と言い含められて情報を渡されていた。
『子爵夫妻がアナベル嬢が甘やかし、マルグリット嬢を蔑ろにしているらしい』と、いうことも聞いていた。
だが……想像以上だった。
◆◆◆◆◆◆
甲高く甘いがかすれた声が、部屋に響く。
「聖女様って。うふふ。本当に、キラキラして、綺麗ね。……お隣の貴方は誰?ルグランって言うの?え?聖騎士なんだ!すごーい!」
「はあ……それはどうも」
ベッドに横たわるアナベル嬢に、俺はうんざりしながら返答した。
ここは、ベルトラン子爵家内にあるアナベル嬢の自室だ。
俺とミシエラは先ほど到着したが、もう遅い時間なので挨拶にだけ来た。
これが、アナベル・ベルトラン子爵令嬢か。
萎びた花びらを思わせるピンク色の髪、濁った空色の瞳、青ざめた顔色だが、とても愛らしい顔立ちの少女だ。
しかし、15歳の貴族令嬢とは思えない馴れ馴れしさと失礼さには閉口する。
というか、許可を与えてないのに名前で呼ぶな。アナベル嬢は無位無爵。こちとら騎士爵持ちの聖騎士だぞ。
「アナベル!聖女ミシエラ様と聖騎士ルグラン様に失礼ですよ!申し訳ございません!」
姉のマルグリット・ベルトラン子爵令嬢は謝罪し、深く頭を下げた。ミシエラは柔らかな笑みを浮かべ、マルグリット嬢の手を握った。
「お気になさらず。貴女が謝ることではありませんよ」
「マルグリット嬢、その通りだ。アナベル嬢、私のことはルグラン様と敬称付きで呼ぶように」
「えー!どうしてえ?アナベル、わかんなーい!」
「それが礼儀だからだ。君も貴族令嬢なら、礼節を弁えたまえ」
「れーせつ?知らない!わかんなーい!」
わからないじゃない。わかろうとしないの間違いだろう。前世、こういう他人を舐め腐った生徒も居たが、どう指導したものか。
「アナベル!」
「きゃー!やだ!お姉様怖い!お父様たちに言ってやるからね!」
こんなに失礼で幼稚な令嬢を治さなくてはいけないのか。ミシエラの神聖魔法は、もっと大切なことに使うべきなのに。
いや、難病で苦しんでいる少女に思うことではないが……。
客室にミシエラを送った際、つい言ってしまった。
「しかし元気な御令嬢だった。ミシエラ、仮病の可能性はないのか?」
ミシエラは真顔で否定する。
「間違いなく魔炎病に罹患しています。確かにお元気そうでしたが、息をするのも辛い状態が常に続いています。さらに発作が起こると、身体を内側からズタズタに引き裂かれるような痛みに襲われるようですね。
……聖騎士エリック・ルグラン。ご自分で確認してみますか?」
「あの魔法はやめてくれ。……人様の一面だけを見て知った気になった俺が悪かった」
「わかればよろしい。しかし、エリックが患者に対して辛辣なのは珍しいですね。彼女がよっぽど気に食わないのか、あるいは……」
意味ありげに金の瞳を細めるミシエラ。
「邪推はやめてくれ。そんな訳ないだろ」
「あらあら。私は何も言っていませんよ?確かにお爺ちゃんみたいなエリックには、あれくらい若々しくて元気な子が合うとは思いますが」
「やめろ。好みじゃない」
まあ、身体が辛いのにあれだけ騒げる根性は悪くないな。そう思いつつ、俺は隣の部屋に引っ込んで眠った。
まさか、翌日には発言を撤回するとは夢にも思わずに。
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