9話
清が袖から線香花火を取り出すと辺りが一面暗闇に包まれた。お雪は自然と手を合わせ祈りはじめる。すべてが間違いでなかったこの世に未練が残らぬように……。
「いざ、花霊々の舞にて候。花護人筆頭、花天照此れに──」
そこには暗闇の中、翼を持つ天女のような花天照が姿を現した。
頭上に顕現し、全てを見渡し見守っている。清の花霊々の舞いを「天へ導く光」として照らし、舞いの根幹を司っている。そしてゆらゆらと羽を折り畳み、清の元に寄り添い、清の持つ線香花火に息をふっと吹き掛けた。すると仄かに火が灯り、お雪を包み込む。火の灯りはまばゆい光となり、まるで花びらが舞い散るように揺らめいた。
火が灯ると地響きが鳴るように地中から一体の花護人が現れる。
まるで灯籠のような姿、笠を被り、目元を隠し左手を掲げ右手を横に添え護る仕草をしている。
「花灯ノ籠ノ番人右手、此を──」
清は手に持った線香花火を番人に預けた。まるで右手はその儚き線香花火を護るかのように微動だにしない。
それを見届けると花天照は再び翼を広げ天に舞う。光輝くと同時に清は花霊々の舞い軽やかに始める。花天照の身体から五つの枝が地中に刺さると枝分かれするように真白の蕾が五つ開く。
厳粛な姿にお雪は言葉を失う。身体の中で何かが祓われた気分に陥る。
清が舞いながらお雪に花告を詠みあげる。
──あなたのめぐみは、この世にひとひらの温もりを残し静かに還る──
清の花告が合図の如く、一つ目の蕾が花咲く。暗闇は鏡になり姿を映し、幻の如く、湖面が現れる。水の波紋が広がり、舞台が揺れれ、そこから花枝の弐、花水鏡が現れた。
「線香花火、蕾の舞い、今ここに──」
鏡の水面のような静かな水鏡の衣を纏う女の花護人。銀色の瞳に、銀色の髪。お雪の心を映し出す。涙を流し子どもらの姿を見いだすと、迷いが徐々に打ち消されていく。お雪の涙が湖面に落ちる。
ぽとり──
雫は波紋となって広がり、花水鏡の舞のリズムと重なるように揺れ動いた。花水鏡が舞いあげると同時に、二つ目の蕾が咲き始めた。そこから蝶の翅を持った花護人が姿を現す。翅衣揚羽の衣は揚羽模様の翅が生え、空を舞上げる。
「牡丹の舞い、参らせ候──」
花枝の参、 花翅が羽ばたく蝶のように風に揺れ優雅に舞う。軽やかに舞いながら、お雪に風を与える。吹かれる度にお雪の未練が牡丹の花のように落ちていく。
そして三つ目の蕾が開くとそこには花枝の肆、 花根孖たちが現れた。翡翠の目、深緑の衣の根音と藤色の目、淡藤の衣の根子が鎖に繋がれ凛とした姿を現す。
「「松葉の舞にて候──」」
「あれは……あの子らかえ……」
お雪は幼子だった二人に目を見張る。二人は繋がれた姿で現れると鎖が切れ、根子がお雪を取り囲む。根音がお雪の影に寄り添い、根子がお雪の心根に寄り添い舞う。その姿に幼子の面影はない。花護人として役目を全うするが如く、姿幼きあれど目の輝きは大人そのもの。大地に張る根のように繋がり、お雪に命の起源を思い出させた。
「婆さまの想い……しかと受け止め申した」
根子がお雪の耳元で囁くと続くように根音が言葉を紡ぐ。
「その想い、確かにしかと、この胸に宿し候」
舞い終わると四つ目の蕾が咲き、花枝の肆 、花霧が揺らめきながら姿を現わした。