8話
「はい……手前は花仕舞師にございます。人は生きてゆくうち、恐れや未練に囚われ、安らかなる最期を迎えられぬこと、ままございます。それらを手前どもが祓い、希望を抱かれたまま、命の幕を閉じていただく──それが務めにございます。お雪さまは、ことさらに『仁』の徳を積まれたお方。その『仁』に生きられた証として、手前が導かせていただきとうございます」
「何を言うておる……わしが『仁』の徳など積んでおるはずもなかろう……」
お雪は戸惑いながらも否定し、首を振る。しかし、清はお雪の瞳を見据え、語りかける。
「お雪さまが子らを想い、見返りもなく『仁』を与え続けられたことこそ、徳の積み重ねにございます。今もなお、あの子らの行く末を案じ、名を口にされておいででしょう。それこそが、何よりの証にございます」
お雪は自分の言動を思い返した。着物の裾をぎゅっと握りしめ、唇を噛んだ。
「わしは、未練の中にありながら……今もあの子らの行く末を……案じておるのか……?」
「まさしく、左様でございます。そして──これが花仕舞師のうち、手前のみに許されし術にございます……」
清は、お雪の前でゆっくり言葉を発する。
「届け──花文!」
清が言葉を告げると、花に包まれた優しき光を伴い、清の想いがお雪の感情へ直接響き渡る。まるで共鳴するように響き、そこには今まで、お雪が大切に思ってきた子らが育った姿が、心に映っている。そこには、お雪が焦がれ、焦がれた姿が映し出されている。目元から涙が溢れ出す、お雪。
「こ、これは……あの子たちの……今の姿か……?」
お雪は震える。今までの抵抗が、泡のように消えていく。
「左様にございます。花根孖の力により、お雪さまの深き想いを辿り、あの者たちの今の姿を、手前が確かめて参りました。あの目の輝き、言の葉の息吹──手前が感じ取ったものを、いま、お雪さまの御心にお届けしておりまする。見えておいでですか? 感じ取られておりますか? まっすぐに育ちし、あの子らの姿を……それこそが、お雪さまの『仁』の結晶にございます」
お雪は言葉を失う。それは、自らが望んでいたあの子らの姿。
「たとえ、お雪さまの御名が霧に包まれ、あの子らの記憶から薄れようとも……あの子らがお雪さまの望まれし姿に育たれたならば、お雪さまの想いは、見事に成熟したと申せましょう」
凛とした清の言葉が、お雪の胸に刺さり続ける。
「わしの想いが……成熟しておると申すか……。あの子らに、わしの想いが受け継がれておると……」
花紋様の痣が、光り輝き出した。お雪は静かに目を閉じた。胸の奥にあった棘のような痛みが、かすかにほどけていくのを感じた。
清は、わずかに唇を開き、静かに息を吐いた。
「お雪さま……刻は満ちました。これより、御見送りの刻と相成ります。いざ──花霊々の舞を……。根音、根子。舞の支度、此処にて整えよ」
「「はっ、畏まりにて候」」
幼き姿をして囃し立てあった二人が、まるで別人のような口調になり、姿が滲み消えていく。
遠く傍らでは、長い黒髪をそよがせた影が、清の姿を傍観していた。
「刻満ちる……か、参るぞ……花化従よ」
「御意でありんす……」