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花仕舞師  作者: RISING SUN
第一章── 仁(めぐみ)の導き手、孤独なる老婆
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7話

 清がそっと唇を動かす。

「お雪さま……手前には、この場にて果たさねばならぬ御役目がございまする」

「御役目、とな……?」

 お雪は「役目」と言う清の言葉に、口を噤んだ。

「は……まこと口にし難きことながら、お雪さまの命の灯火、今まさに揺らぎ始めておりまする。あの文に記された子らをお待ちいただくには、あまりにも残された刻が少のうございます」

「ふふ……言われずとも、己が身の内、よう心得ておるわ」

 お雪はきっ、と清を睨む。しかし、清は微動だにしない。

「さようでございますな。お雪さまに比ぶれば、手前など未だ道半ばの身。しかしながら、この身には『花紋様(はなもんよう)』と申す痣を視る力、備わっておるのでございます」

「花紋様……とな?」

 聞き慣れない清の言葉に、お雪は言葉を失う。

「左の手の甲に浮かぶは、命の残り香とも申すべき痣にございます。これこそ、命の終焉を示す、確かな証にて」

「ははは……何を申すかと思えば……」

 お雪は左手の甲を掲げる。

「そんなもの、この甲にゃあ存在せぬ。見えぬものを信ずるほど、わしも耄碌(もうろく)しとらぬわい」

 しかし、お雪には身体に得体の知れない痛みが広がっているのがわかる。

「根音、根子……お雪さまに、その紋様が見えるよう、手をお貸しなされ」

 二人は黙って頷き、お雪の元に寄り、お雪の左手の甲に手をかざす。

「……ご無礼いたします、お雪婆さま……」

「これが……お婆さまの、命の定めにございます」

 翳された二人の手のひらから温かいものを感じると、お雪の目には、はっきりと自身の左手の甲に痣があることが確認できた。

「こ、こんなもの……きっと、何かのまやかしじゃろうて……」

 お雪は、痣が浮かび上がった手を引こうとする。

 清は無言で、ゆっくりと首を振る。

「まやかしではございませぬ」

「ま、まさか……これがまやかしでないと、申すのか?」

 お雪は慌てて、躊躇いがちに清に問う。

「それこそが、花紋様にございます。しかしながら、お雪さま……この痣、決して恐れるべきものにあらず。むしろ、命の旅路を穏やかに終えるための導にてございます。未練や憂いを祓い、安らぎへと至る印……それを仕舞うことが、手前どもの役目、『花仕舞師(はなしまいし)』と呼ばれる者の務めにございます」

「命の旅の()い……未練を祓う……と?」

「左様にございます。そして、此の二人──根音と根子──その幼き姿に相違ござりませぬが、実のところ『花護人(はなもりびと)』の一員、『花根孖(はなねし)』と申し上げます。手前の務めを支える、大切なる伴にございます」

 清の言葉には、厳粛な響きがある。まるでそれは、これから始まることに一切の躊躇いのない言葉だった。

「……舞い……と申すか」

 お雪は心を圧倒されていく。

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