7話
清がそっと唇を動かす。
「お雪さま……手前には、この場にて果たさねばならぬ御役目がございまする」
「御役目、とな……?」
お雪は「役目」と言う清の言葉に、口を噤んだ。
「は……まこと口にし難きことながら、お雪さまの命の灯火、今まさに揺らぎ始めておりまする。あの文に記された子らをお待ちいただくには、あまりにも残された刻が少のうございます」
「ふふ……言われずとも、己が身の内、よう心得ておるわ」
お雪はきっ、と清を睨む。しかし、清は微動だにしない。
「さようでございますな。お雪さまに比ぶれば、手前など未だ道半ばの身。しかしながら、この身には『花紋様』と申す痣を視る力、備わっておるのでございます」
「花紋様……とな?」
聞き慣れない清の言葉に、お雪は言葉を失う。
「左の手の甲に浮かぶは、命の残り香とも申すべき痣にございます。これこそ、命の終焉を示す、確かな証にて」
「ははは……何を申すかと思えば……」
お雪は左手の甲を掲げる。
「そんなもの、この甲にゃあ存在せぬ。見えぬものを信ずるほど、わしも耄碌しとらぬわい」
しかし、お雪には身体に得体の知れない痛みが広がっているのがわかる。
「根音、根子……お雪さまに、その紋様が見えるよう、手をお貸しなされ」
二人は黙って頷き、お雪の元に寄り、お雪の左手の甲に手をかざす。
「……ご無礼いたします、お雪婆さま……」
「これが……お婆さまの、命の定めにございます」
翳された二人の手のひらから温かいものを感じると、お雪の目には、はっきりと自身の左手の甲に痣があることが確認できた。
「こ、こんなもの……きっと、何かのまやかしじゃろうて……」
お雪は、痣が浮かび上がった手を引こうとする。
清は無言で、ゆっくりと首を振る。
「まやかしではございませぬ」
「ま、まさか……これがまやかしでないと、申すのか?」
お雪は慌てて、躊躇いがちに清に問う。
「それこそが、花紋様にございます。しかしながら、お雪さま……この痣、決して恐れるべきものにあらず。むしろ、命の旅路を穏やかに終えるための導にてございます。未練や憂いを祓い、安らぎへと至る印……それを仕舞うことが、手前どもの役目、『花仕舞師』と呼ばれる者の務めにございます」
「命の旅の終い……未練を祓う……と?」
「左様にございます。そして、此の二人──根音と根子──その幼き姿に相違ござりませぬが、実のところ『花護人』の一員、『花根孖』と申し上げます。手前の務めを支える、大切なる伴にございます」
清の言葉には、厳粛な響きがある。まるでそれは、これから始まることに一切の躊躇いのない言葉だった。
「……舞い……と申すか」
お雪は心を圧倒されていく。