199話
「われが判断を誤ったせいで……」
花護人筆頭、花天照が項垂れ、目を伏せている。
「なぜ、人外なる我々が清さまの元へ行けず? いくら見張り厳しかろうとする抜けられるはずでは……?」
根音が喰ってかかる。
「ガキ……理理くらいわかるじゃろうて……我々は花仕舞師がおっての花護人。しかしながら今はその主が不在。つまるところ清さまが花仕舞師として心を閉ざしておる。ならば我々は動けず」
根子が言葉を荒げる。
「何を跳ねっ返り!」
根音はどうしようもない苛立ちを隠せずにいる。
「落ち着きなさい、花根孖たちよ。しかし、あの時、清さまが捕えられる時、花根孖の根音と根子を、いくら清さまの命とは言え、引き離したのがそもそもの誤りの元凶。いかなる時も二人は側に置いておかねばならなかった」
花天照の言葉には力がない。
「ただ居場所はわかっておるのだろう?」
花枝弐の花水鏡が口を挟む。
「わかっておる……先ほど痣の気配を感じた。花紋様の痣を持つ者の側におる、それはあの城におる。そう……以前、現路殿を仕舞った城」
「清さまと繋がれば飛んですぐにでも身元、参上できるものを……」
花枝参、花翅が苦虫を噛み潰したように顔をしかめる。
花天照は遠く、小高い丘にそびえる悠前の城を見ていた。小高い丘の頂に、その城は天を突くようにそびえ立っていた。幾重にも重なる石垣は、まるで訪れる者を睨み据える瞳のようで、足を踏み入れる者の心を容赦なく試す。天守は空を割り裂く黒い刃のようにそびえ、招き入れる慈悲など一切なし。近づこうとすれば身も心も粉々に打ち砕くが如く。それは、選ばれし者のみが辿り着ける、拒絶と威圧の象徴──まるで、生き物のように鼓動しながら、余人の侵入を嘲るかのように佇んでいた。それは清のようであった。
「清さまが心を閉ざせば、我々と共鳴せねば我々は花護人としての価値なし……もし、頼れる存在とすればこの世にひとりしかおらぬ」
花枝陸、花誓は呟く。
「本懐成し遂げるためならば、いかなる困難も打破する……人か鬼か……」
「そう、静さま……静さまがいかに動くかで、この現状が打破できる、ただ憎悪、日に日に増す清さまの心に届くかどうか……」
花灯の籠の番人右手は沈黙を貫く。
花天照以下花護人たちははただ祈るしかなかった。
「清さまにとって御敵である静さまに頼らざるは、なんたる皮肉よ……」
眼下に広がる城は花護人たちにとって、固く閉ざされた門のようであった。
「大丈夫……清さまなら……」
根子が呟やいた。