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花仕舞師  作者: RISING SUN
第十二章──和(やわらぎ)の調和、争いの終わりし者
198/252

198話

「清……どうされたのだ……何がお主をそうさせた……? 今ある寝顔はまこと美しい……しかしながら先程の顔は……やはり怨念渦巻かせる物の怪と言われても仕方なし」

 そう呟きながらも熙剣は、己の羽織を脱ぎ、横たわる清にそっとかぶせた。傷痕を隠す熙剣。

 どたどたと慌てふためく物音が奥から聞こえる。息づかいさえ、襖越しに聞こえる。

「殿……何事でございまする! 騒ぎ聞き付けて参りましたが、もしやあの物の怪が騒ぎだして……」

 家臣が急ぎ参上し、襖越しに声をかける。

「静かにせよ……慌てるでない。さすれば、きよは疲れ果て、今は眠りにおる。そっと致せ! 近う寄るでない……厳命なりぞ!」

「しかしながら……殿に大事があっては……」

 家臣も引き下がらない。

「よい、と申しておろうが! しかしながら、この清の安息、妨げるとあらば──そちとて容赦は致さぬぞ! いかが致す……?」

 熙剣は静かに、声を張り巡らせる。

「こ、これは……ご無礼を……しかし、万が一あらばその時は……例えご命令あれど、殿を護るためでござれば……」

 熙剣は苦笑いを浮かべる。

「ほんに、用心なること仕方なしか。ならば、あい、わかった……しからば、それまでは下がれ……こと荒立てるな!」

 熙剣は襖越しに押し黙り待機する家臣の気配を感じながら、清の頬を撫でた。頬は涙で濡れている。

「今は……ゆるりと眠られよ、清……この安らかなる寝顔に反し、その生きざま想像するや筆舌に尽くし難し。そなたの申す半死とやら、助ける術は果たして無きものか……」

 眠りにつく清の側で天を仰ぐ熙剣。

「われ、いと無力なる身よ……世の平定を願い、ただひたすらに刃を振るうをもって、この世の(やわらぎ)と信じておった……。されど、身近なる者すら救い得ず……愛を注ぎし者さえも、守り通せぬとは……例え、隣国各々、和を成し束ね、泰平の世を築きあげんとしても、清が胸中に安寧の訪るること(つい)ぞ、叶わぬであろう……」

 落胆する熙剣。これまで戦で、いかなる困難も乗り切った男の姿はそこにはなかった。それは愛でる者を純粋に共に生きたいと願う和合の想い。


 ズキンッ──


「痛っ──なんだこの痛みは? それに何やら熱い……」

 左手の甲に痛みが走り、熱を一瞬帯びたが……それはすぐさまに消える。熙剣は左手を掲げた。

「何もなき……今の痛みはなんぞ……?」

 それは……限られた者にしか見ることのできぬ痣……朧気ながら熙剣の甲に痣が浮かび上がりはじめていた。


 ──見ることができる限られた者が言う詞、それは花紋様──

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