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花仕舞師  作者: RISING SUN
第十二章──和(やわらぎ)の調和、争いの終わりし者
195/252

195話

「清さまは無事じゃろうか?」

 根音がぽつりと呟く。

「大丈夫だと思うが……じゃがあの時、『(やさし)』が芽生えたこと言うとった……あれは芽生えたんじゃなくて……」

 根子が答えた。

「わかっとる……様々な徳にあてられ自らの徳が戻りはじめとる……」

「そうじゃ……ようやくじゃ……残りの三っつの徳が清さまの花匣に収まった時、すべてが終わる……」

 根音と根子は寂しそうな顔をする。


 ──世實代を仕舞ったあと……──


「根音、根子終わりました……じゃがこれはなんぞ……私の中に新たな徳、『慈』が……」

「それは……」

 根子の歯切れが悪い。

「根音、何か知らぬか?」

 根音にも問う清。

「わ、わからぬことに……」

 根音も答えない。

「そうか……じゃが、この『慈』なぜか懐かしさが込み上げてくる……もしや記憶が戻るのか……?」

 ふと声をあげた時だった。

「そなたたちか……この騒乱の元凶は……火を放ち、暴れ狂い、民を惑わす、忌まわしき物の怪どもよ……! まことに恐ろしき所業……これより御目付衆、ここにてそなたらを捕らえ、正しき裁きを仰がん!」

 声は震え、言葉の端々に恐怖がにじみ出ていたが、領主より授かった役目を果たそうと決意を露にしていた。新たにこの地を支配する領主御目付衆として、見回りの役目を帯びし者どもは、町の騒ぎに馳せ参じ、民衆の証言を(ただ)しつつ、不届き者と目された清を取り押さえんと、その身構えた。

「なっ……何を……」

 清は突然、包囲され戸惑う。

「て、手前は火など、それに暴れ狂うなど……」

 清は無実を訴える。

「ええい、民どもの声は皆、そなたらを指しておるぞ! 証拠は十二分、もはや構わぬ! いざ、引っ立てい!」

 捕らえられようとする清。打物(うちもの)を持ち滲み寄るお目付役衆。追い詰められる。

「根音、根子よ、われに構わず行け! 逃げるのじゃ……そなたらならば必ずや巧みに凌げよう! さあ、急げ、逃げるのだ……これは主たるわれの命ぞ!」

「いやです……清さま……」

「おいらも同じじゃ、清さまと一緒じゃ」

 二人は清にしがみつく。

「何をしておる! われの(めい)が聞けぬか! 早うにげぇ……」

 清は二人を突き放し、一人、お目付役衆に立ち塞がる。

「いやじゃ……」

 それでもすがりつこうとする二人。

「仕方なき、花天照よ……二人を連れて逃げなさい!」

 すっと姿を現す花天照。

「御意……」

 花天照は根音と根子を抱え、すっと姿を眩ます。

「やや、あの童子どもは何処へ……やはりそなた物の怪なり……! 捕らえよ」

 清は打物で打たれ、押さえつけられ捕らえられる。

「なにゆえ……このような仕打ちを……」

 清は周囲を見渡す。民衆の目はまるで冷たく罪人を見る目……。

「そうか……それほどまでに……」

 清は頭を垂れた。そしてそのまま抵抗する気力さえなく縄をうたれ、連れていかれた。


 ──人非らざるわれは打物で打たれ、縄かけられる姿が相応しい──

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