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花仕舞師  作者: RISING SUN
第十二章──和(やわらぎ)の調和、争いの終わりし者
194/252

194話

「いやはや……まこと奇怪にして不可思議なるけいにてあった……朧気(おぼろげ)ながらに見えしもの、それは他の者には決して見えず、ただ余、一人の眼にのみ映じたるものなり。真白の装束に、漆黒の羽織を纏いたるおなご二人……式神めきし影ども、現路殿を芯とし、舞い乱るるさま、いと妖しうて、つくづく胸底に響きおる。されど、これなる景色、幻とばかり思うておったが……」

 熙剣は語るあの日のことを語る。


 ──まさか……花紋様の共鳴にございましょうか……? いえ……熙剣殿の左手には、紋様はお現れにならず……さすれば……いかなる訳にて……? なにゆえに……?──


 清の心の内は乱される。


「それよりのちのことにてある……常に夢の中に現れ出でるのじゃ。余を芯となし、舞を舞う者どもが現るる……。まこと、奇怪にして不可思議なる景にてあった……」

 熙剣は笑う。

「我も……仕舞うべきか、清とやらよ。されど、我には徳なるもの、いささかも備わらず……なにゆえならば、我は戦に生きし者。世の平定をこそ願いはせしが……あまりにも、その本懐を遂げんがため、人を殺めすぎた……これにては、舞うに値せぬ道理にてあろう……?」


「わかりませぬ……そればかりは、わかりませぬ……」

 清は返答に困る。その戸惑いをまるで試すかの如く笑う熙剣。

「清とやら……近う寄れ。そちの話、さらに詳らかに聞かせよ……花仕舞師として、これまでいかなる道を歩みしや。我は、そちの語りを聞きとうてたまらぬのじゃ……まこと、現世(うつしよ)には不可思議なること多かれど、そちの目に映る物語、そのすべてを、我に伝えてくれよ……」


 ──げに……不思議なる殿方にてございますな……そのお力、その御心の推進、まこと魅力あるものにござる──


 清は導かれるように熙剣の側に寄る。

「ほう、そちは我が怖くないか? 我のような傍若無人の如く振る舞う我を……」

「そうでござるか? 手前にはすべてを欲しがる稚児(ややこ)に見えまする……」

 清は優しく微笑む。

「ぶ、無礼な……!」

 家臣がいきり立つ。

「我が稚児(ややこ)……はははっ──面白い! そちは、げに面白い。我を稚児(ややこ)と呼ぶのはそちだけじゃ……」


 ──我は何をしとる? なぜ惹かれる……この殿方に……──


 清は旅路の話を聞かせた。耶三淵(やみぶち)の村から始まる旅路……お雪の『(めぐみ)』の話からはじまり、灰音郷(はいねきょう)の灰塊の『(ただしさ)』、盲目の僧侶、零闇の『(うやまい)』、語れば尽くせぬほどの濃密な時間を清は熙剣と過ごした。

「まこと、そのような者どもを……そちのその胸に仕舞っておるのか?」

「さようでございます……いつからここにあるかはわかりませぬが、手前のここには花匣(はなはこ)なる器があり、そこにかの者たちの徳をお預かりしております……」

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