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花仕舞師  作者: RISING SUN
第十一章──勇(いさみ)の心、恐れを越えた少年
188/252

188話

「花化従よ急げ……」

 面に隠された静の表情は険しい。花化従は吐息を線香花火に吹き掛ける。


 ふうっ……


 柔らかく届く息に線香花火が灯る。向こうでは花天照が清の掲げる線香花火に火を灯している。お互いの花灯の籠の番人右手はなともしのかごめのばんにんめてが清の線香花火を、仇花灯の籠の番人左手あだばなともしのかごめのばんにんゆんで静の線香花火を受け取り、それぞれ右手は己の右手を添え、左手は左手を翳しそれぞれの火を護る。両塔並び立つ姿は圧倒的で笠を目深くかぶり灯籠の如く姿。

「見えぬとも、感じられよ……世實代殿、これが徳を持つ者にのみ赦される花霊々の舞、灰塊殿を仕舞い、そしてこれが世實代殿のために舞う舞──」

 世實代の耳に届くは決意の(こえ)。告げる花告(はなつげ)


 ──いさみの歩み、恐れと共にあれど、散り際こそが誇り──


 傍ら、静が告げるは花現身(はなうつしみ)


 ──恐れの風よ、幾度吹きて 我が身を惑わせるか。死は遠きものと知れども、心は怯むばかり──


 声に反応するかのように花天照は真白の蕾、花化従は漆黒の蕾をそれぞれ五つ開かせる。

 「急ぐのだ……花化従、早く仇花枝弐を……花雫(はなしずく)を……屋敷の炎を打ち消すことのできる雨を……」

 静は急がせる。

 

 ぽつり……ぽつり……ぽつぽつぽつ……


 雨が降り始め、強くなる。漆黒の蕾が咲く時、青い瞳と靡く髪。雫の衣。その姿、まさにゆっくりと染み出て、産まれいずる水滴の如く花雫が現れ舞を披露し始める。

「花雫よ、あの童子(わっぱ)のために舞え、そしてそなたの雫であの穢れし炎を打ち消せ……我らが舞にあの穢れた炎は無用……」

「御意──」

 花雫げ舞うごと雨が強まり、炎を打ち消していく。そして舞は世實代の未練までも洗い出していく。

 真白の蕾が咲く時、水鏡の湖面が現れると花枝弐、銀色の目と髪、水鏡の衣がまるで世界ごと映し出す花水鏡(はなみかがみ)が姿を現し、舞い始める。そこにある世實代の迷いを水鏡に映し出し、舞うことで打ち消す。幻想的な舞が見るものすべての心を捉えていく。

 瞬く間に火が消えていく。真白の蕾が咲く時、一面が花園に変わる。

「この場に穢れ焦げ煤けた香りは場違い……」

 蕾から咲き乱れるように蝶たちが舞い上がりその中から、一際大きな翅。それは、揚羽模様の羽衣を纏った花枝参の花翅(はなばね)が姿を現し、花園に幻想かつ穏やかな風景にさらに彩りを加える蝶の群れ。まるで世實代の未練を吹き飛ばし、導きの道を示す舞い。それは優雅であり儚い。しかし、ほぼ同時に漆黒の蕾が咲くと黒い影がしゅるしゅるりと這い出す。そして世實代の影に纏わりつく。

「世實代に何を……」

 菊は世實代を強く抱き締める。黒い影は答える。

「我々はただ仕舞うのみ……感情で動く者ではない。ただ仕舞うのみ」

 黒く見えた衣は青く艶やかに光っている。青艶の衣に濡れた髪。それは影に寄り添い未練を纏わせる舞を披露する仇花枝参、花徒影。舞う度に陽に照らされ青く煌めく姿は恐ろしくもあり、美しくもある。

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