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花仕舞師  作者: RISING SUN
第十一章──勇(いさみ)の心、恐れを越えた少年
181/252

181話

 ──なぜに……お主、苦しむ道を選ぶか……その苦しみに抗えるのか……──


「われ灰塊の息子……茨の道……歩むがわが誇りなり……」



 清は目を閉じる。一刻の沈黙──。

 目を開けるとその切っ先は止まっている。

「清殿……」

 世實代は清を見つめている。

「どうされた……世實代殿……?」

 清は懐剣を持つ世實代の震えが止まっていることに気付く。

「今、われの中で囁く、薄気味悪く白い手で招く者をこの切っ先で貫きました……それがし……父上が清殿に託した『義』、信じとうなりました。だからこそ……われの心の中に蠢く『怯』の物の怪を成敗し、貫いたでござる……清殿……われ、父上の仕舞われた最期の場所に行きとうございます。あの霧深く包まれた石造りの小屋へ……」

灰音郷(はいねきょう)でござるか……?」

「そうでござる……その場に立てばわれ、深く父上の御覚悟知ることができると確信いたしまする……」

 世實代の目は確固たる『勇』芽生えし、光が宿っていた。

「覚悟をお持ちか……?」

 清は問う。

「愚問でござる……覚悟なき者に茨の道は進めませぬ……」

 それは十そこらの数えを迎えた童子には見えぬ輝き。

「ならば参られますか? そこに……一歩間違えば命、容易に呑み込む処、灰音郷に……」

「承知──」

 揺れぬ世實代。向かうは霧深く岩壁そり立つ場。名の由来がついた音の響きは主を喪い、今は聞こえぬが、その険しさは今、尚変わらず。

 清は再び、灰音郷を目指すことになった。



 ──筆を重ねし数、十四に及ぶ。道を紡ぎ、十四の心を以て綴るとき、そこに徳、芽生えなん──

 静は花匣(はなはこ)花神威ノ命(はなかむいのみこと)授かった際の言葉を思い出していた。

「今、重ねた筆は十。残り四っつ……『徳』を形成するには残り四画の心。それをあのような形で筆を進めるか……」

 静は笑う。

「我が妹は無茶が過ぎるのう……この胸の疼きによう伝わる」

「静さま……ほんに、気苦労お察ししますでありんす」

 花化従(はなげしょう)は憐れみ。

「憐れみなど無用……向かうぞ……その一点の筆を確かめるために、そして本懐へ進むため……喜ばしいことぞ……この刻を止めることなく進める、我ができ損ないの妹を仕舞うがために……いざ、灰音郷へ」

「御意でありんす」

 静の進む道を背で追う花化従。


 ──この強さはどこから来るでありんすか? 自らの過去の過ちに、けりをつけるためでありんすか? それとも……あの愚妹を……──


 花化従は首を振り、その思いを振り切る。


 ──わちきは静さまに従うのみ……あとどれくらい静さまに寄り添えるかわからぬが……しかし、この道の行く末……誰が救われるでありんすか……──

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