表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花仕舞師  作者: RISING SUN
第十一章──勇(いさみ)の心、恐れを越えた少年
180/252

180話

「何を言われる?」

 驚く世實代。清は跪き、自らの襟元をぐっと開く。

「何をなさる……清さま!」

 根音は清の突然の行動に驚き手を伸ばす。

「手出し無用と言うたろが!」

 清は語尾を強め根音を制する。根子が根音の肩を抱き締める。

「あれは……止まらぬ。あの清さまの心持ちはうちらには止められん……知っておろう。あれは常起きる心、(はし)るものでなく己の意志。ならば……うちら見届けるのみ……わかったか……ガキが……」

 肩を押さえる指先から震えが止まらない根子。

「わ、わかっちょるが……この跳ねっ返りが! しかし、それではお目付け役の役目果たせず……」

 根音の言葉も震える。

「こうなれば清さまを信ずるのみ……」

 二人は震えあがりながら清を見守る。 

 清は懐から懐剣(かいけん)を取り出す。


 ──これは使う必要なかろう……──


 根子は思い出す。いざという時に花天照が授けた懐剣。受けとる際、清は笑いながら受け取っていた。根音と根子は黙ってその光景を見ていた。

「なぜ懐剣を……」


 スシュ──


 根子が呟こうとした時、柔く布を切り裂く音。それは清の胸に巻かれたさらし布を切り裂く音だった。清の胸の傷痕が晒け出される。あの心の臓に続く生々しい傷痕。

「なんじゃそれは……そんなもの……」

 世實代は驚きというより恐怖を感じ動けず。その世實代に懐剣を渡す。

「さあ、父、灰塊殿な仇、ならばこの胸の傷痕を貫けばよい……そなたが灰塊殿の言葉と手前を信じぬのならば迷わず貫け……手前は一切、世實代殿を恨まず。さぁ……」

 懐剣が握られた世實代の手を取り、その傷痕に切っ先をあてがわせる。

「さあ、貫け──灰塊殿の仇ぞっ」

「やめろ……われは……」

「躊躇うことはなかろう……手前は花仕舞師……世實代殿が言うか「殺め」と紙一重の線上に立つ者。見方次第では救う者でもあり、殺める者ともなる……この覚悟を持ってこその花仕舞師……」

 清は笑う。しかし、それは死の衝動から来るものではない。仕舞師の覚悟から来る微笑。

「なぜ……父上は……父上は……」

「世實代殿は灰塊殿と似ておられる……」

「父上と……?」

 世實代は震えが止まらない。それは清の傷痕に切っ先を突きつけているから来る震えではない。

「灰塊殿も『(ただしさ)』に思い悩まれ心を痛められていた。そして今……世實代殿は『勇』に思い悩まれている。ならばこの切っ先はそれを絶ち切るためのもの……さあ……」

 今一度、世實代の手を握り力を入れる。

「そして、世實代殿の左手に花紋様の痣が浮き出ております。これは世實代殿を仕舞わねばならぬことを意味します……これこそがまことの非常なる(うつつ)……世實代殿に咎はなき……すべては運命(さだめ)……」

「うわわぁぁぁ……」

 世實代は懐剣に力を入れ、突き刺した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ