表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花仕舞師  作者: RISING SUN
第十一章──勇(いさみ)の心、恐れを越えた少年
179/252

179話

「これは……父上の声……それに……」

 世實代の目には自然と涙が溢れてくる。心に響くは灰塊の声。

「今、世實代殿に届けたるは灰塊殿の最期の刻……まことの(うつつ)

「……清殿、そなた……父上に何をした? 何をしたんだ!」

 そこに映るは霧が深くかかる薄暗い石造りの小屋の部屋。灰塊が清に『(ただしさ)』の心を託し消滅していく姿。

「手前は花仕舞師、舞いにより花紋様の痣が浮かぶ者をその徳を持って仕舞うが役目。灰塊殿は痣が浮かびし徳を積まれたお方。それゆえ、舞いにより仕舞わせて頂きました。これがまことなり……」

「何が仕舞わせて……つまり、父上を殺したのか? やはり民衆が言うようにお前は物の怪……父上を(たぶら)かし、父上を殺したのだ!」

「違います……よう、灰塊さまの声をお聞きください」

 根子が間に入る。

「黙っとれ! この声だってまやかし物に違いない。誑かそうとするな!」

 世實代の怒りの目が清に向けられる。しかも哀しみをも含み怒りと哀しみが届けた花文に靄をかける。

「げに非常なる現と申したが、やはり受け入れられぬか、世實代殿?」


 ──ほら、あの者の声に耳など貸す必要などない……そなたには『怯』がよく似合う……──


 囁きの声が世實代を支配していく。白い手がずぶりと世實代の心の臓を撫で回す。


 ──ほんに、そなたの小さき心の臓がこくこくと蠢いておる。まこと可愛らしい……怯えて怯えて……それがそなたによく似合う。ずっと怯えて踞っていた方が楽なり──


 囁きの声が優しく惑わす。


 ──堕ちて、一生怯えて過ごせよ……『勇』の徳など持てばそなた苦しむのみじゃ。ほら……──


 世實代の心の臓はその白い手が鷲掴みにし、握りつぶしてくる。世實代は『怯』に寄り添おうとしている。

「我は信じぬ、そなたは物の怪……父上を殺し我を惑わし、そして我も殺すのだな!」

「そうですね……世實代殿には手前が灰塊殿を殺めたように映るか……」

 清はそれでも揺るがない。いや、揺るがせられない。


 ──姉さまならどうする? この純粋さがゆえ乗り越えられない者の魂を……しかし、なぜ、私はあの憎き姉さまを呼び起こす。憎しみが日に日に増すのになぜ……なぜ……なぜ──?──


「根音、根子……もし、私に何があっても手出し無用。これは私自身の解なり」

 清は二人を牽制した。それは揺るがぬ決意をこの場にいる者たちに示すため。清は世實代に寄り添う。

「寄るな物の怪!」

 清は微笑みそれでも世實代に寄り添おうとする。

「寄るなと言っておるだろ!」

 世實代はたじろぐ。その瞬間、清は世實代を抱き締める。

「世實代殿……そなたが受け入れぬ覚悟を示すのであれば、手前も覚悟を示そう……どちらの覚悟がどちらを動かすか……試そうぞ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ