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花仕舞師  作者: RISING SUN
第十一章──勇(いさみ)の心、恐れを越えた少年
172/252

172話

「また、あやつは……」

 苦悶の表情を浮かべ胸を抑え、月灯りが仄かに照らす岸壁に立ち海を眺める。灯りに照らされ、揺らぐ波がきらきらと光る。さざ、さざと静かな波の音が聞こえる。空を見上げれば満天星がひらひらざわめく。すべての音が導くような(こえ)そのもの。

「静さま……またでありんすか? ほんに手間のかかる妹君で……」

 花化従が後ろから囁くように声をかける。

「……それがし、今ある奴の宿命。痛み感じず、死を求むること仕方なし」

 静は俯く。

「けれども、それがため、静さまは……」

 花化従は憐れみの声をかけようとすると、静はかぶせ気味に花化従を一喝する。

「言うな……我はゆらめかず……」

 静の芯の通った目に花化従はおののく。

「出過ぎた発言、赦してありんす。まこと静さまの心意気、感服いたすでありんす」

 静は独り言のように呟く。

「我が本懐……人はみな嗤うだろうか? ただ一人のために成し遂げるこの本懐を愚かだと嘆くだろうか……?」

「そのようなことは無きかと。花神威ノ命さまさえ、沈黙お約束戴きましたゆえに……」

「花神威ノ命さまはただ憐れみの情……それは馬鹿げたおなごの戯れを憐れみみただけなり……」

 静はそれ以上は語らなかった。

「わちは静さまの本懐に付き添うまででありんす」

 花化粧は優しく笑う。

「花識よ、おるか?」

「はい、ここに……」

 闇より現れし花識は膝をつく。

「しっかと、「真綴(まことのつづり)」書き記しておるか?」

「はい、余すこと無く……」

「そうか……」

 静は、今一度、煌めく海を見る。


 ザパァーン──


 波が岸壁に砕ける、波飛沫が飛び散る。

「あと、四人の痣を持つ者の元へ……『(いさみ)』、『(やわらぎ)、『(うやまい)』、そして『(いとし)』の徳を持つ者たちが待っておる。いや、正確にはあと三人……もう、(とき)はあとわずか……」

 静は左手の甲を眺め、左手に、さらし布を強く巻き、ぎゅっと締める。

「これをまだ晒すわけにはいかぬ……そして……」

 右手の甲を掲げる。

「こちらにも浮かび上がる……」

 静の右手から微かな香りがする。

「刻が満ちることを告げるか……花紋様の痣よ……」

 月灯りに照らされた静の右手。そこにはぼんやりと花紋様の痣が浮きはじめていた。

「花化従、急ぐぞ……『(いさみ)』の徳を持つ童子(わっぱ)の元へ」

「御意でありんす……」

 静のは振り向き進む。踏みしめる足元はかさ、かさと草木が揺れた。

 

 ザパァーン──


 さらに波が岸壁に砕けた。そして、また静かに波を、さざ、さざと、また満天星はひら、ひらと、聲を響かせた。

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