169話
祈りの声が清と静にも響く。
第二の蕾が花開く。そこは一面花乱れる壮大な場。蝶が舞い、香りが一瞬で立ち込める。すべてが心を掴む。
そして、その中、ひらひら舞う蝶が人型に姿を変え、揚羽模様の翅衣をひらひらと舞わせ穏やかに舞う。牡丹の舞──。それは花護人参、花翅。未練、後悔を祓おうと舞う。しかし漆黒の蕾が花開くと陽に照らされ青く煌めく衣の花傀儡の花徒影が神座に纏わりつくように舞う絡牡丹の舞を披露する。未練、後悔を何度もとなく炙り出す。炙り出された未練や後悔は花翅が翅により吹雪かせる。それは満開の花園に花びらがあますことなく舞うかの如く。積りゆく花びらを再び翅で扇ぐと宙に舞い、一瞬で青々と生い繁る森林へと化す。まるでその森林の気が心を癒す。
第三の蕾が花咲く。真白の花から生まれしは花護人肆、花根孖。鎖に繋がれた二人。それはいつも清に寄り添う根音と根子。鎖が切れると緑の瞳を持つ根音は神座の影に、藤色の瞳の根子は神座の心根に寄り添い舞う。松葉の舞──。神座の影に根を這わせる根音、心根に根を張る根子。それは大地から命の源を結びつけるかの如く『畏』の徳が膨れ上がる。
漆黒の蕾が開く。得も言えぬ色の衣を纏い背を向けた花傀儡肆、反花。一人背を向け、形の崩れた舞。逆松葉の舞──。一人異質な舞。今までの舞が型成す舞であれば反花の舞は型無しの舞。見るものを陥れ未練後悔を煽りまくる。神座の膨れ上がった『畏』の徳に未練や後悔が纏わりつく。それは着火するのことを待つが如く。
第四の蕾が開くとそこは濃霧に包まれた世界に早変わりする。輪郭を持たずぼやけた姿は花護人伍、花霧。そしてその濃霧を払うかのように現れるは花傀儡伍、花焔。辺り一面焔の湖から生まれすべてを焼き付くす。それは反花に煽られた未練後悔に着火させ、増殖させる。花霧はそれを祓い徐々に輪郭をはっきりとさせてくる。白い髪に白い瞳。舞う舞は柳の舞──。濃霧穏やかに晴れると雲一点もない空へと変貌。しかしながら紅の瞳に焔の衣を纏う花焔の舞は朽柳の舞──。焔を滾らせ、未練後悔を焚き付けて欲として荒れ狂う焔と化す。晴れ渡る空に焔の湖。織り成すは青と赤の色彩。すべてを祓い、すべてを焼き付くす。やがて焔が静まる。
神座は祈りをやめない。それは『畏』を信じ、今まで抱いた未練後悔を抱きしめ最期までみとどけるため。
──さあ、神座よ、見届けようぞ──
「はい、花神威ノ命さま……」
最後の蕾が開く。真白の蕾が開くとそこは荘厳、天器ノ匣社へと。しかしながら内陣、外陣は人々があまて信仰祭った頃の姿。そして奥から出でるは花護人最後の花枝陸、花誓。花冠の優雅に白衣緋袴の巫女姿。
「あぁ、花誓……いや、初代神座さま……」
神座が呟く。壮大にして神秘。そこは神の器として神を宿した如く。
「散菊の舞──。神座さますべてはこの刻に捧ぐ」
誓約書を抱え舞う。それはまるで巫女として捧げた神座を奉るが如く。
「花誓め、何か余計なことを吹き込んだな……」
静は勘づくが、意に介すことはせず、花傀儡陸、花墨が咲くのを待った。