表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花仕舞師  作者: RISING SUN
第十章──畏(かしこみ)の祈り、神を信じた巫女
164/252

164話

 ブクブクブク──


 ──身体が震える。収まらない……これは、それがしの『(かなしみ)』に溺れた罪か……ならばこのまま沈んでいこう、暗く深い、深い、光の届かぬ海底の果てまで……──


 目を閉じたまま、意識は暗闇を彷徨う。


 ──えっ?──


 暗闇に沈むと思われた矢先、神座は仄かに光る明かりを見つける。


 ──これは……──


 踠こうとすれど身体は動かず。呼吸は暗闇に奪われたまま。


 ──だめだ……やはり赦されず、沈むだけ……やはり、それがしの信仰、不義理なり……──


 ブクブクブク──


「神座さま……神座さま……」


 ──誰だ? それがしを呼ぶのは……──


「届け──花文!」

 沈む心に色鮮やかな言葉が流れ込んでくる。


 ──これは……仕舞われた者どもの言葉……これは我が神、花神威ノ命さまの教えに従い、花仕舞師に救われた者たちの声か……なんとみな、それぞれが魂の徳を成就され輝いておるか……それもただ徳を抱いているだけではない、繋がりを感じる……すべてが連鎖しておる……すべからく花開き、道開くかの如く…──


 神座はゆっくりと目を開ける。

「しっかり、なされ……神座さま……しっかりと……」

 それは神座に意思のままに抗い、心に皹を入れた清だった。己の衣を脱ぎ捨て、神座に羽織らせ、身体を温めている。

「汝も花祓ノ滝に……あれは、慣れずに入れば身を壊すほどの冷たさ……なぜに……?」

「わかりませぬ……手前はこのまま神座さまをほっとけませぬ、手前は花仕舞師……己の立場、十分に心得ております、が、まだ人としての感情は持ち合わせております、例え人非ずとも……」

 清の言葉は重く心に響く。

「人非ずもか……汝は花匣を埋めらされし匣。それでも、それがしを救うか? ただ壊れた神の器のそれがしを……」

 涙を流す神座。それは己を『畏』に捧げた人としての感情をあらわにする(とき)だった。


 二人を遠くから見下ろす人影。

「花焔よ……あのでき損ないをどう見る?」

「はい……花仕舞師としては優しすぎるかと……」

 言葉を返した花焔に、人影は告げる。

「そうだ、あのでき損ないは花仕舞師として、優しすぎるのだ……あのまま仕舞えば、神座さまの徳、『畏』は仕舞えたはず。しかしながらそれができぬのだ……だから……、目の前で両親を殺し、花切の契が必要だった。しかし、それでも、まだその優しさを見せるか……あのでき損ないは……」

 人影は面をかぶり天を見上げた。虹色に輝く空と対象的に人影の心は目元から流れる雫と唇を噛み滲む雫で、深く暗闇に覆われていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ