表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花仕舞師  作者: RISING SUN
第十章──畏(かしこみ)の祈り、神を信じた巫女
161/252

161話

 清をちらりと見る神座。その目はまるで幼子。人形を与えられ、如何に操り、捏ねくり回し戯れようかと心の内に楽しむ目。

「ほう、壊れたか? いや、すでに壊れておったようだが……本当は薄々感じておっただろう? 汝、痛みは感じるか? 汝、死への渇望に、心を震わせるほどの快感を得てないか?」

 清は頭を垂れ、心に闇が広がる。それは幾度も襲った熱情。いや、熱情と謳うにはあまりにもぬるま湯。地の臓腑より湧きいずる熔け火、黄泉火の如く、万物を焼き尽くさんと蠢く清の内から熔け出す火胎(かたい)。その熔け出しが肩が震わす。ゆっくり震え、徐々に激しく揺れる。それは尊厳囲う社さえ無理やり震わそうと抗う。

「はははっ──、手前が何者? そのようなもの、この際どうでもよきこと。手前は、宿清(やどりやきよ)。誰がなんと言おうとも、我が憎悪の的、姉さまを越え花仕舞師として仕舞う運命(さだめ)に恋い焦がれた者。そこに人、もののけ、手前に意味なしっ! あるのは手前の感情だけが花仕舞師に宿ればよい」

 清の中にある憎悪の塊が弾けた。

「父母を殺め、手前を狂の刃で貫き……」

 清は着物を乱し、さらし布を剥ぎ取り、醜く残る生々しき傷跡を見せつける。

「この傷ある限り、この憎悪消えることなし、ゆえに『花切の契(はなきりのちぎり)』を交わした。ならばその姉さまを仕舞う本懐為すため、神をも仕舞うは手前の道理──その道理を塞ぐならば、根音、根子……舞の準備を……そなたらの主は、この清じゃろうがっ!」

 清の目は血走り、憎悪を晒け出す。

「それでも燃えらすか? ならば我の本懐に沈むか……でき損ない……花化従(はなげしょう)よ、()が火胎が真に熱きか? そちの産みの親、神座さまか? 我か? そこのでき損ないか?」

「もちろん我が主、静さまでありんす……他の者、眼中になきにありんす」

 即座に応える花化従。

 憎悪の炎を滾らせる清。それさえも操ろうとする静。そして、その二人の対立を嘲笑うように見つめる神座。

「汝ら姉妹の暴走に我を仕舞うか……しかしながらそれは無理な戯れ言。ただ、げに面白いこと請け合い……」

 嘲笑する神座を清が睨む。

「ただ……」

 清が口を開く。

「ただ、神座さまに『(おそれ)』の徳は感じませぬ。今、ある姿は徳にも値いせぬお方。なぜに花紋様が現れたか甚だ疑問……今まで仕舞う覚悟を持った方々は、すべからく『徳』が顕著に現れた……なぜに?」

 対峙する清に神座はふっ、と笑い応える。

「それは、この痣持つ神座の言葉ではないからだ……神座の心の言葉を聞け……我は汝ら二人の終幕、口出しせず見守ろうぞ……余興楽しめた。清とやら、その身で花仕舞師演じてみせよ、静とやら覚悟の本懐、成し遂げてみよ……」

 神座はそう言葉を二人に投げ掛けると、今まで語ることさえ、喉元に刃を突きつけられた如く、ひりつく気は影を潜め、そこに漂うのは崇高さでも畏怖でもなく、ただ虚ろな、終わりきった静寂。

 そこに在るのは、もはや社と呼ぶにはあまりに哀れな廃屋。人々に忘れ去られ、神の気配など一片もない。ただ湿った空気と、どこからともなく吹き込む風が、かすかに音を立てるのみ。神々しき社、天器ノ匣社あまうつわのはこやしろはただの古ぼけた社、空匣社(からばこやしろ)に変わり果てた。

 そして、そこには神座が横たわり意識を喪っていた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ