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花仕舞師  作者: RISING SUN
第十章──畏(かしこみ)の祈り、神を信じた巫女
158/252

158話

「本気でございますか?」

 根子が躊躇いの表情を見せる。

「……あまり、近づきたくない場所でございます……」

 いつも元気な根音もたじろぎ、動揺している。

「何をしておる……いかなる相手でも、そこに花紋様現れる人いるならば、向かうが我ら花仕舞師の運命(さだめ)

 清はずかずかと進む。霞がかる霧がかかる。それは誰も寄せつけず、拒むかの様子。しかし、清は恐れることなく進む。

「清さま……しかしながら今、向かう場所は……」

 根子が清の袖を引っ張りながら足止めしようとする。

「花仕舞師の総本社。もっと慎重に向かわれた方が……」

「隠れて参るが、恥ではないか。恐れは語りの足を鈍らせる。それが最も恐ろしい……根子よ」

「違う……そんなことじゃなくて……」

 根音は声上ずらせながらをあげる。

「ここがすべて、そして……下手を打てば我々、花仕舞師、断罪さえ辞さない処」

しかし、その言葉に呼応するように、目の前に現れる巨大な石鳥居。神さえ見捨てたかの様子。苔むした石鳥居は、今もなお社を守る結界のように聳えていた。かつては無数の参拝者の祈りを背負って立ち続けたその白い石は、幾千の雨に打たれ、夜霧に濡れ、今はひび割れに深い影を落としている。それでも崩れず在る、その姿こそが、神威の残響を物語っていた。

 石鳥居をくぐった先、道を塞ぐようにいく筋もの朽ちかけたしめ縄が張られていた。太く編み上げられた麻は、雨と苔に侵され、いくつものひび割れを抱えながらもなお、そこに在った。

 紙垂(しで)は破れ、風にかすかに揺れるたび、死んだ蛇のようにくぐもった音を立てる。

それは、神と人との境を示す結界であり、侵すべからずと告げる無言の威圧。

 根音と根子は、その場に釘付けになった。

「清さま……これを越えるというのですか……!」

 声がかすれ、袖を握る手には冷たい汗が滲む。

 しかし清は、一度も振り返らずにすすむ。

「この先行かねば……今まで仕舞った者どもへ顔向けもできぬ」

 そして、その一歩は迷いなく。朽ち果てた注連縄(しめなわ)の結界を、まるで雲を払うかのようにくぐり抜ける。その瞬間、周囲の霧がわずかに脈動し、ひび割れた石鳥居の影が深く沈んだ。

 根音と根子は思わず息を呑む──それは、人が神域を侵すというより、「神に己を差し出す」行為に見えた。


 ──ここは花護人として我らが生まれた場所……天器ノ匣社あまうつわのはこやしろ。そして、我らが絶対的主である神、花神威ノ命(はなかむいのみこと)が奉られる神聖厳かな処。それでも今、主が進むのならば……──


「清さま……」

 声は遠く、霧に吸い込まれる。根音、根子の二人は清を追いかけたが、神威の宿る蔦に絡まれたかの如く、重い足をひきずった。

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