157話
人知れず荘厳に立ちはだかる社。ある本懐のために訪れし者。そこに対峙するは巫女姿を借りし花仕舞師の本源。導かれしは禁忌を犯し、縋る想いで辿りつく。その者、経緯を話し三つ指をつき、これから行う行為に赦しを乞う。神の器である巫女は話を聞き、頷き、語りかける。それ、すなわち神の声と等し。この者の唯一頭を下げる者なり。
「花匣……筆を重ねし数、十四に及ぶ。道を紡ぎ、十四の心を以て綴るとき、そこに徳、芽生えなん。所謂、人として返る道しるべ。汝、茨の道歩むならばこれを授けん。しからば、その者の心の臓に埋め込めよ。汝、本懐への道は自と開かれる。しかしながら心得よ。汝、求める本懐は久遠獄の入り口開くなり」
震えながら受け取る。手に取ると、その重みに耐えられなさそうになる。
「ここは花仕舞師、総本社、天器ノ匣社、しかし刻過ぎて空匣社と言われる始末。人の信仰とはなんともあやふやなもの。それでもそちはやり通せるか……否か?」
ふっと笑う。
「ここに来たはすべて覚悟の上……」
「ならば……そちの本懐もっと強固なものにしてやろう……此を……」
渡されしは『花切の契所作』。
「それと、この簪、名を『時留の花飾り』と言う。人の死への刻を緩やかにすべきもの。これを三本、汝に渡す。好きに使え」
手をかざされ、光が包み込む。
「汝、封じられし、花仕舞師の力戻してやろう。しかしながらそれは『仇花』」
根源成す大樹現れ、漆黒の蕾が五つなる。一つ、現るは青い瞳と髪、青い衣を纏う花雫。二つ、現るは黒い瞳に濡れたような髪、陽の差しようで青く光る衣を纏う花徒影。三つ、現るは背を向けし、顔見せることなく、得も言えぬ色した衣を纏う反花。四つ、赤い目と逆立つ髪を持ち、焔の衣纏う花焔。五つ、焼き尽くされた灰の如くの色の瞳と髪を持ち、墨模様の衣纏う花墨。そして大樹より、最後に出でしは豪華絢爛衣装に身を纏い、道中下駄履き鳴らす筆頭、花化従。
「これは汝の僕となり、名を花傀儡と言う。本懐助く者たちなり。そして汝、舞うは花霊々の舞に非ず。仇花霊々の舞──」
花化従をはじめ花傀儡たちは、みな頭を垂れ、膝をつく。
「すべからく、汝の本懐への道、ここから始まる。しかし、汝、忘れるな……万が一しくじれば、すなわちそれは花神威ノ命の名において我が裁くと……ゆめゆめ忘れることなかれ」
これは、二年前に遡りし、出来事なり。すでに九徳は花匣に収まり、残は五徳──
すべからく授かりし、者の名は──宿静。