表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花仕舞師  作者: RISING SUN
第九章──忍(しのび)の想い、秘めし愛の守り手
156/252

156話

「すべて忍びながらも愛を貫いた紅花殿と夜月殿の想ひを胸に……届け──花文!」

 清が緋月夜桜に花文を届ける。緋月夜桜の心に花文が届き、清に『忍』の徳が返ってくる。

「これで、緋美殿も……徳、九つ目……残り五つ……」

 清は安堵しながらも静の異変に気付いていた。


 ──なぜに姉さまは動揺した……あれほど舞に関しては完璧に舞う姉さまが……──


 舞台上、静まり返る。そっと緋月夜桜は左手を掲げた。その指先一本一本が気高く美しく染まる。やがて姿が幻の如く消えていく。

 その消え行くさまに見物衆……涙を浮かべる。

「なんと……壮美な終幕、なんと美しき……秋姫の最期……」

 静かな舞台に咲き散った荘厳な緋月夜桜に歓声割れんばかり。嵐の如く熱気、舞い上がる。それは千種座の外にまで響き渡り、風が舞え枝葉に残るすべての桜の花弁を撒き散らした。


 幕がすべてを終わらせたかのように、すっと閉まる。それでも鳴り止まない歓声と拍手。

 紅花はただ、緋月夜桜が消え去った場を見つめている。

「聞こえるか……緋美……この歓声、拍手は緋美がためのもの。このようなうねり、我、生涯一度もない……それゆえ、忘れることはできず……この十年。共に生きた人生、わが誇りの終幕じゃ……」

 紅花は膝をつき、嗚咽を出し泣き叫んだ──。


「緋美ぃぃ……!」


 清は振り返らず、根音と根子に声をかけた。

「最期の最期まで、幕閉まり、見物衆いなくとも秋姫、つまり秋架殿を演じきった……緋月夜桜殿……まったく見事な芝居なり。ゆくぞ……父を演じ、母を演じた忍びの男の涙は見るものではない……」

根音は見つめたまま。

「ほら、根音、ほんとマセガキ! でも今は少しだけ黙っててあげる」

「何を、跳ねっ返り……!」

 根音と根子の会話を聞きながら、微笑み、ゆっくりと紅花と緋美の二人を残し、消えていった。

 

 そして、千種座を後にする静。夕日に染まる空はもの悲しげに映る。そこには自らの弱さを否定する静がいた。

「なぜに我は、惑った。我は……本懐成し遂げるため、すべてを捨てた。それなのに……笑え! 花化従……主として恥ずべき姿を見せた我を……」

「笑うでありんす……静さま……しかし、それは……ほんに、それがための本懐……静さまは、いかなることがあろうとも花仕舞師……花仕舞師は笑うが花でござりんす……」

 花化従なりの思いやりの言葉。

「背を向けろ! 花化従……」

「御意……」

 花化従はただ短く返事をし、背を向け何も見なかった、何も聞かなかったことにする。

 夕日に照らされる夕日の緋色に静の目元は光を帯びて流れた。




 ──第九章 終幕──

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ