155話
二つ目の蕾が交互に開く。ひとつは一面花畑の場に翅衣を纏う、花護人参、花翅花翅。そしてそこから這い出るように現れ陽の光に去らされ青く光る衣を纏い濡れた髪を揺り動かす花傀儡参、花徒影。蝶の如く、空を自由に飛び回りながら舞い、緋月夜桜の『罰』を散らせば、逆に花徒影は『罰』を緋月夜桜に纏わせようとする舞。
──これが、まことの花仕舞師の舞……なんと幻想的、かつ心を震わす舞……──
舞台上で紅花は感嘆する。緋月夜桜は舞台上にて閉じる瞳から静かに涙を流している。
三つ目の蕾が開く。真白の蕾からは鎖に繋がれた双子の花護人肆、花根孖である根音と根子。漆黒の蕾からは背を向け顔を見せず、えも言えぬ色の衣を纏い、見るものすべてに型を崩すような舞を披露する花傀儡肆、反花。場面は深呼吸を促すほどの木々生い茂る森林地帯。『忍』の徳の根を張らせるように根子が緋月夜桜に寄り添い、影に根音が寄り添う。幼子の二人は凛として舞う。
「お姉ちゃん……」
根音は複雑な表情を浮かべながらも花護人として舞、仕舞う。逆に反花は挑発するように型を崩し、緋月夜桜の『罰』を煽る舞。
四つ目の蕾。一気に霧がかかったかと思えばそこから輪郭なさず幻の如く現る花護人伍、花霧、緋月夜桜の迷いを晴らすが如く徐々に晴れやかになると輪郭を現し、灰色の髪と瞳の、灰色の衣を纏う姿が現れ舞う。一方、場内、焔に包まれ、焔が揺れるが如くの瞳に逆立つ髪、深紅の衣を纏う花傀儡伍、花焔。反花が煽った『罰』を焚き付ける。緋月夜桜の『罪』を焚き付け、焚き付け、焚き付ける舞。それは焚き付け最期に黒く染めるが如く。
「あの者、あの時の……」
花焔を見た市三朗は妖艶かつ情熱な舞に震え上がる。
そして最期に控えし蕾が開くと荘厳あらたかな社が舞台に姿を現し、花冠頭に身につけ、巫女姿の花護人陸、花誓。誓約書片手に舞い緋月夜桜に誓約書を掲げる。花傀儡陸は花墨焼け焦げたような色の衣を纏いし、姿は花焔に焦がされた『罰』を塗りつけ、そのまま静かに成就させるが如く舞う。花護人、花傀儡、それはまるで緋月夜桜の人生を再現し、死を成就させようとする。
──さあ、最期に締めるのです。紅花殿、花結の言葉を高らかに……──
紅花は緋美との想い出を胸に……
──語らずとも、寄り添うぬくもりがある。隠れた愛は、決して消えず、しのぶ如く、風のようにそばにいる──
「此にて花結、締結──」
そして、静が花尽の言葉を告げようとする。涙を流す緋月夜桜がかすかな声で口にする。
「もっと、父上さまのような演者になりたかった……」
その言葉が静の忘れがたき想いと重なり、言葉が出なくなり、舞が止まりかける。目頭がじんわりと滲みかかる……。
──この想い……あの時と……──
「静さま……! 心乱れてまする……いけないでありんす。本懐成し遂げるために……これでは二の舞ですぞ」
静は、はっとする。
──いかぬ、なぜ、あの小娘に『罰』を背負わせてまで、舞台を操ったか。そう、乗り越えさせるため、『忍』の徳をより強固にするため、我が本懐成し遂げるため……──
──心に染みし罰よ。罰を受けるは、我が運命なり。ただし、深き闇の底へ。これしのびの心を抱いて──
「此にて花尽──」