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花仕舞師  作者: RISING SUN
第九章──忍(しのび)の想い、秘めし愛の守り手
153/252

153話

 舞台袖で演劇を見る清。まるで高杜(たかもり)で見た光景さながら。演じる役者の魂籠る舞台劇。特に緋月夜桜演じる秋姫は圧巻。

「ほんに秋架殿を見ているよう……」

 しかし、清には一抹の不安がよぎっていた。演じる緋月夜桜の左手の甲に現る花紋様の色が枯れかけている。


 ──まさか……この劇中に……──


 それは、漆黒の着物を纏う女も肌で感じていた。

「ここで痣が……」

 隣に座る花化従に耳打ちをする。

「花化従よ……芝居、中断の恐れがある……直、花紋様枯れる。ならばいかなる場でも舞をせねばならぬ。舞の施しだけは怠るな……」

 一瞬、驚きの表情を見せるが主の言葉は絶対と意に決する。

「かしこまりでありんす……」


 舞台はしずしずと進む。第二段、第三段と見物衆、緋月夜桜の演劇に魅せられる。

 ……しかし、緋月夜桜は身体の異変を感じる。


 ──なんだか、身体が動かない。それに……左手の甲が熱い。これが花紋様の痣の兆し……息が苦しい。白粉のおかげて、顔色はばれないが、しかし……意識が……遠のく……でも、この舞台だけは譲れない。譲ってたまるかぁ──! ──


 緋月夜桜の表情は秋姫そのもの、しかし、心は迫り来る死の恐怖に鬼の形相で抗う。

 第四段で緋月夜桜演じる秋姫が禍矢(まがや)により胸を貫かれる段取り。見物衆、まるで緋月夜桜の胸が矢を貫かれたと思うほど。見物衆のおなごたちは悲鳴さえあげた。倒れ込む緋月夜桜。しかし、それは演劇ではなく……花紋様が終わりを告げる刻だった。

「まだ……第五段……信物語の終幕が残っている……」

 緋月夜桜は舞台床に爪を立てた。

 黒子が、三色縦模様の定式幕(じょうしきまく)を閉め、第四段が終わる。裏方、終幕に合わせ舞台を整えるが緋月夜桜は動かない。

「いかがした……? 緋美……」

 緋月夜桜の異変に気づき、紅花は花仕舞師の仮面をかなぐり捨て、母の顔になり緋月夜桜に駆け寄る。

「母上さま……身体がおかしい……左手の甲が熱い。息が伴なわない。気が遠くなりまする……」

「左手の甲……まさか、花紋様の痣が──?」

 紅花は辺りを見渡し叫ぼうとする。

「演劇を──」

 しかし、緋月夜桜は紅花の口を押さえる。

「母上さま……なりませぬ。今は母上さまは花仕舞師、そして私は秋姫……この舞台を止めてはなりませぬ。母上さまの私に対する想い、ひしひしと伝わります。しかしながら、母上さま……先日の清殿の覚悟を見られたか? 花仕舞師とは如何なる時も本文をまっとうされようとした……ならば母上さま……母上さまが花仕舞師であるならばこの舞台ではまっとうされよ。私はまっとうします、秋姫として……耐え忍ばれよ……私も終幕まで堪え忍びまする」

 緋美の覚悟の言葉に言葉を喪う紅花……。

「ここまでの覚悟……しかし……」

 狼狽える紅花に微笑む緋月夜桜。

「しっかりされよ……母上さま……」

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