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花仕舞師  作者: RISING SUN
第二章──義(ただしさ)の誓い、過去の刑吏
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15話

 カチン──カチン──


 硬い石を切り出す鋭い音が空気まで切り裂き、辺り一帯に響き渡る。その音が鳴り出すと心まで響く。深く深く、心を切り裂くような音。それはまるで、自分自身の過去を断罪するような音だ。

 いつ誰が呼び始めたかわからない。この道は灰音郷(はいねきょう)に続く道。霧が深く立ち込める。草履で歩くには、あまりにも安定していなかった。

 しかし、根音と根子は跳ねるように歩いていく。

「根音、根子よ、待ってたもれ……此度ばかりは、この道なき道を、斯様な勢いにては歩めぬのじゃ……」

「清さま……舞師にてあられるに、些か情けのうござりますなぁ」

 根音が茶化すように跳び跳ねる。

「舞とは関わりなきことじゃろうが!」

 清が息を乱しながら追いかけるように歩く。


 カラカラッ……カラカラッ……


 石を削り、細く道を作り上げた崖沿いの細い道。清が歩くたびに蹴った石が崖下に落ちていく。どこまでも、どこまでも落ちていく。そして、転がり落ちる音は底に落ちるまでに消えた。底のない海。崖下は霧に呑まれ、まるで広大な白い海のように広がっている。落ちた者は救われることのない谷。人はせめて神の元に還れるようにと地変天異環神ノ谷ちいてんぺんわがみのたにと呼んだ。

「清さま、大丈夫ですか?」

「そなたらのようには歩めぬのじゃ。しくじれば落ち……!? 落ちることが……叶うのか……?」

 清の頭をよぎる。急に清の目が虚ろになる。一瞬、すべてが無音になった。何も聞こえない。鼓膜すら張り詰める静寂。そこに突然、清の頬を纏わりつき撫でるような陰気な風が吹き上げる。耳元で囁くように誘われ、「このまま堕ちなされ……そなたの苦しみ、誰かのもとへ届き申すゆえ……」と聞こえたような、いや、清自ら落ちることを選ぶように足が地面に触れているはずなのに、遠く感じる。体は重いのに、何かに吸い込まれるように石で歪んだ道から片足を外していた。


 ──このまま落ちてしまえば、私は得ることができるかも……──


「清さま……!」

 まるで根子が察したように、鋭く刺さるような声が清の心に届いた。はっと我に返る清。

「また、何か禍々しきこと、思い巡らされておられぬか……!?」

 根子が心配そうな目で見つめている。

 そして、さっきまで先を跳ねるように歩き、茶化していた根音が、いつの間にか清の袖を力強く掴み、きりっと下唇を噛み無言で踏ん張っていた。

 清の瞳は、得も知れぬものを振り払おうとしている。

「ま、まさか……そのようなこと……落ちようなどとは……われが思うたわけでは……なき……」


 ──ただ、風が誘った気がした。いや、誘ったのは己自身なのか?──


 根子はため息をついた。

「根音や、清さまの御袖、放してはなりませぬぞ……」

「すまぬ……根子……」

 この時ばかりは、根子に反抗するでもなく、素直に根子に対し頭を下げた根音。

 清は時々、何かを望むような行動を無意識に起こす。その行動を押さえることが花護人筆頭(はなもりびとひっとう)花天照(はなあまてらす)を通して授かった根音と根子の役目だった。

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