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花仕舞師  作者: RISING SUN
第九章──忍(しのび)の想い、秘めし愛の守り手
148/252

148話

「緋美……」

 数日後、紅花は汗を滴らせ稽古に励む緋美に声をかける。

「母上……何か?」

 目つきさえ変わり果てている。冷たい視線はまるで散った花弁に雪が降るようだ。

「我と稽古をしよう……」

 見下すような視線のままふっと笑い天を見上げる緋美。

「どこから始めまするか……母上? ほぼ仕上げましたのでどこからでもどうぞ……」

「そうか……ならば秋姫と話舞師が二人、対峙する段取りをするとしよう」

 二人はまるで命の取合いをするかの如く、刻を支配する。そこはまるで台帳に記された「里にひっそりと佇む(いおり)の内。

藁葺き屋根は時雨に洗われ、板戸は歪み、開け閉めのたびに軋む音を響かせる。壁板の隙間より差し込む日差し、すきま風が淡く草の香を運ぶ」……のような姿が二人の間に現れる。

 緊迫した表情から一転、秋姫が舞い降りたように笑みを浮かべ、台詞を語り出す緋美。それに呼応するように対話する紅花。

 秋姫の言葉に偽りはなく、心よりの詫びがにじむ。疑念の色、秋姫の顔に浮かぶ。仕舞師、慎重に口を開く。仕舞師の声音に、秋姫のまなざしは静かに変わる。仕舞師、静かに目を伏せ、深く息を吐く。そして、真実を語る。言葉はやわらかに、されど、その意味は死の告げに等しきもの。

 二人の芝居を遠くから見ている清。それはまるであの時、秋架と対峙した日を思い出すようだった。しかし、緋美への違和感は拭えない。確かに芝居は対峙、会話するのみの段取りであれど息を飲むほどの美しさ。が、それだけだ。あの時、秋架の心が『温』ならば緋美は『冷』だ。それは、紅花も感じていた。


「緋美……そちの演技、まさしく迫真……これこそ見物衆、沸いて然るべき。しかしながら、ここでの秋姫の感情、まるで違うのではないか……」

「そうでしょうか……「(たより)」に打ちひしがれ、密かに『(うらみ)』育くむ最中、冷たき心が妥当かと」

 緋美は前に踏み出し、紅花の進言に抗う。


「そうか……ならば我が描いた一幕仕立ての戯れ芝居……やってみぬか?」

 紅花は唐突に言い放つ。それは『(つみ)』を愛する緋美にさらけ出す覚悟。

「よいですよ……私はいかなる劇も臨む所存です……まして、戯れ芝居など……いと容易き」

 余裕と言わんばかりの表情で差し出された台帳を手に取り目を通す緋美。しかし、一時それを読み上げると表情が一変する。


「さあ、幕開けじゃ……緋美。お前にこれを演じきれるか……子、想ふ母の命をとした物語じゃ……」


 ──演目、上弦の月元、ただ願う緋色の子の明日への路──

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