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花仕舞師  作者: RISING SUN
第九章──忍(しのび)の想い、秘めし愛の守り手
147/252

147話

 紅花が千種座に戻るとひとり稽古に励む緋美がいる。そこには数刻前の緋美とは似ても似つかぬ様。妖艶増した緋美。その姿に魅入られる己がいたことがわかる。


 ──人の感情とはここまで演者を変えてしまうのか。改めて人の感情とは芝居の本質ぞ──


 紅花は、それが今の緋美を動かす力、そして芸の本質と思い背を向けた。


 ──今は台帳を清殿に見せることが先決なり──


 台帳を楽屋から拝借すると清の元に戻る紅花。

「これが台帳にござる」

「げに申し訳ござらん、紅花殿……」

 清が表紙を見ると『綴り人 花識(はなしき)』の文字に目がいく。

「『花識』……確かこれは……いつか『(まごころ)』の徳、現路(げんじ)殿に会いにいく際、花傀儡(はなくぐつ)花化従(はなげしょう)と一緒にいた人物と同じ名……やはり姉さまがなんらかの仕掛けを……」

 憎悪が心の中で渦巻く。


 ──姉さまは何がしたいのだ? 緋美殿に『(つみ)』の心を持たせ……──


 心の内思いながら綴られた台帳を静かに捲る。それを見守る紅花。清が読み終える。


 フウッ……


 清は深く息をついた。

「やはり……この物語は秋架(しゅうか)殿と『(たより)』の物語……酷似している、いやあの時のさま、そのもの……」

「あの時とは……?」

 清の呟きに咄嗟に言葉を挟む紅花。

「紅花殿……この台帳……すべて事実……そしてこの台帳に出てくる端女の姫、秋姫とは秋架殿、つまり紅花殿が温情賜った鷹司弓定(たかつかさゆみさだ)さまのご子息、現、東洲ノ国領主、文綱(ふみつな)さまの娘のことでございます……」

「なんと……あの鷹司家の……姫……」

 紅花は驚きが隠せなかった。

「そして……この台帳に出てくる花仕舞師……それは……手前のことでございます……」

「そなたなこととな……」

 すべてが繋がっていく(えにし)

「ならば……緋美殿は誤った感情で秋姫を演じていることになる……秋姫、つまり秋架殿はあの様な心の持ち主では断じてない。あの方は『(たより)』を貫かれた慈悲深きお方……いかなる困難あろうとも、契りなど結ばなくとも信じぬき、どこまでも深く深く……海のように広い心を持たれていた。ならば緋美殿、その心で演じなければ秋架殿の恥ともなる……だからこそ、もっと知って頂きたい紅花殿も……届け──花文!」

 清は紅花に花文を使い秋架の『信』を紅花に届ける。

「これは凄まじきほどの『信』なり。このようなお人とは……」

 紅花は秋架のまことの心を知る。

「そして……この想ひを緋美殿に届けるのは……母親である紅花殿の役目でございます……できられますか?」

 清は問う。紅花は決意する。

「できる、できないではなき。やらねばならぬ。緋美の父として……母として……」

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