表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花仕舞師  作者: RISING SUN
第九章──忍(しのび)の想い、秘めし愛の守り手
143/252

143話

 ──十年前──


「夜月、今宵の密命、気を付けなされ……敵陣深く切り込むゆえ、しくじり命取りと相成る」

「わかっておりまする……」

「それに稚児(ややこ)も産まれたばかり、まだ無理することもなかったのではないか?」

「確かに愛しき娘、緋美を心の内、想へば心苦しゅうなりますが、しかしながら手前、忍びの身。掟、従いしが宿命」

 琥太郎、夜月は言葉を軽く交わし、上弦の月光の中敵方陣の川下で影を潜めた。

 当時、ある国の忍びの里、身隠(みかくれ)にて筆頭たる腕の持ち主であり、里、党首の信頼も厚く重要な密命で絶対的な力を発揮していた。そして夜月もくノ一として紅一点でありながらも他の忍よりも抜きん出ていた。

 そして今宵の密命、その領主から敵対国の一番手将を密かに絶つ(めい)が下されていた。

「やけに静かでござるな……」

 黒の頭巾をかぶり気配を伺う琥太郎。確かに見張りらしき人物は確認できたが、しかしあまりにも粗末な見張り。この暗闇、松明の灯りは命綱。灯さねば闇を支配する者どもの格好の餌食も同然。だが各箇所に点々と灯す程度。これでは狙えと言うもの。

「夜月……何かおかしいと思わぬか?」

「何をおっしゃる。確かに手薄に感じますが、それは我らが力を見くびるが証拠。進みますぞ、琥太郎殿……」

 闇夜に紛れる夜月。

「待て! 夜月……どうした……?」

 今まで勝手行動を取らなかった夜月。しかし、焦るが如く突進する夜月。

「仕方なし、皆、段取り上手く事を運べ」

 他の(ともがら)衆に指示を出す。各地に配置した身隠衆が動き出す。

 しかし……事運ぶ前にすべてが見抜かれたように明々と松明が灯る。それは琥太郎たちすべてを照らすように。影が消えていく。


「今だ……! この灯りは我が御旗に味方した。賊を討ち滅ぼせ!」

 敵方から戦声(いくさごえ)が響く。多勢なる軍が声をあげ押し寄せる。

「引け……ここは一旦退けぇ──!」


 ──なぜ……敵は我らが奇襲を知った? それに陣の配置を?──


 琥太郎が叫ぶ。が、影に生きた者が影を消され水辺に打ち上げられた魚と同じ。血飛沫が舞い、一つ一つ影が消えていく。琥太郎は応戦しながらも徐々に押されていく。舞うように忍者刀を振りなんとかかわす。しかしながら闇夜を敵に奪われた琥太郎の力は半減する。

「夜月どこだ……どこだ……!?」

 消え行く仲間たちの中、取り囲まれた夜月を見つける。

「夜月──!」

 敵方を切つけ、なんとか夜月の元に辿り着く。

「大丈夫か? 夜月……」

「すまぬ、琥太郎殿……我の不注意で……このような……結末……」

「安ずるな……今はここを退くことのみ……緋美の元へ戻ることを優先せよ……」

 しかし、二人に明々と灯る松明は風前の灯だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ