140話
「何があった……何がそうさせた……「母上さまが逝った事実を心に留めれば……」!? もしや……」
紅花は緋美のあまりの変貌にある答えを見いだした。
「しかし、そのまことを知るのは座元のみ、ただ座元とは先ほど打ち合わせをしていた、座元が話したことは考えにくい」
紅花は頭に巡らせる。
「いかがされましたか? 千種座の紅花殿とお見受けいたしますが……」
清が声をかける。
「……やや、そなたは……いつぞやの……」
緋美が団子屋前でぶつかった子の連れの女と思った。
「はい、そうでございます。先ほどの童女、あの日、見た姿とあまりにも変わりようでございましたが……」
清は紅花の動揺、緋美の変わりように、素直に問いただした。
「いや、なんでもござらん。急ぎますゆえ……」
紅花は急ぎ足でその場を去ろうとした。
「お待ちください……実は、先日から『花紋様』の痣が左手に浮き出ておるゆえにこちらに参上いたしました。その痣、こちらとしても看破できない事情ゆえ……」
「花紋様? 花紋様とはなんぞ? いつぞや漆黒の衣纏いし女もそのようなことを言っておった……ここには痣など何も……」
「漆黒の着物……? ここに……もしや、あの童女の変わりよう、手前の姉さまが……」
「そなたの姉さま……? もしや、お主らが緋美に何かしたのか!?」
言葉の調子があがる紅花。
「それはわかりかねますが、漆黒の着物とはたぶんながら手前の姉かと……それと「花紋様」、つまり幽世への橋渡し、死への宣告を告げる痣でございます。それは逃れられぬ宿命。そしてそれは今、左手の甲で緋々と色づいております。そしてそれは花仕舞師なる者たちだけが見ることのできるしるし……」
「何をわからぬことを……」
焦りからか苛立ちを覚える紅花。
「手前どもは花仕舞師にございます……痣を持つ者を徳を持って未練を打ち破り、浄化しあの世へ導く存在でございます」
「花仕舞師と……?」
さらに頭の中で整うことが困難になる紅花。
「あなたさまが演じた死仕舞師……まことの姿が花仕舞師」
清は毅然と言い放つ。
「では、そなたは物の怪のたぐいか?」
汗が額から滲み出る。桜の花弁がそよそよとひとひら舞っている。
「いえ、違います。『花死奇談』あれは花仕舞師を畏れ敬った御伽話に仕立てたもの……まことは物の怪に非らず人であり、物の怪のたぐいで言うならば私ら花護人でございます。私らは花仕舞師である舞を興ずる者の補佐的役目……」
根子が口を挟みすべての細い糸が絡み合いはじめる。
「そうか……だからあの時、お主の姉は言ったのか……「実の舞を見届けることになる。死仕舞師……真の名、花仕舞師の舞を……」と」
紅花はぽつりと呟いた。