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花仕舞師  作者: RISING SUN
第一章── 仁(めぐみ)の導き手、孤独なる老婆
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14話

「終わりよ……清……」

 静は見下すように清に言い放った。清の心情が爆発し、動けない身体から声を振り絞る。

「姉さま……なぜ……ここまで……」

 心から叫ぶ。憎しみが、土砂の流れのように心に押し寄せる。そして言い様のない痛みが一気に流れ込む。


 ガクッ──


 静がその瞬間、膝を折るようにふらつく。その時、一人消えずに残った花化従が支える。

「静さま……お身体は大丈夫でありんすか?」

 心配そうに静の顔を覗き込む。

「口を挟むでない……」

 はっとする花化従。

「恐れ入りんした……出過ぎた真似、いたしんして……」

 静は花化従の差しのべた手を払い、清に背を向ける。

 根音と根子はその姿をじっと見ていたが、静が花化従を一喝した言葉にはっとして、清を見る。

「清さま……今はどうか、動かぬよう……」

 根子が懇願する。

「今は、何も考えずに……お願いでございます……これ以上……」

 根音が清の気持ちを押さえようとする。

「これでは……われは姉さまを超えられぬ……使命を果たすこと叶わぬ……花仕舞師として……一族の仇、宿静(やどりやしず)をこの手にて、われの舞で仕舞わねば……」

 歪んだ唇から漏れ出るのは、怨みの言葉。圧倒的に適わない舞を静に見せつけられ、どうすることもできない憎しみ──それが清を支配する。

 その時、ふわりと仄かな光が、お雪の亡骸のあった場所から沸き上がった。

「見てくだされ、清さま……お雪さまの想いが、未だ残って……今なら、花文、通ずるかと……」

 根子が口走る。

「花文を……?」

 戸惑う清に、根音も呼応するように焚き付ける。

「早う……今の想い、届けて……」

 言われるがまま、清は花文を告げる。

「届け──花文!」

 仄かな光に花文が届く。しかし、それは跳ね返された。

「やはりだめか……想いは届かぬ……」

 清は項垂れる──しかし、それはただ跳ね返されただけでなく、何か温かい想いが乗っていた。

「これは……(めぐみ)の心……」

 仁の心がそのまま清の心に吸い込まれていく。

「お雪さまの徳が……われに……なぜ、なぜこの身に……」

 見上げると、仄かな明かりは消えていた。

「良うございました……間に合い申した……これこそが、清さまが静さまを超える鍵……今、ひとつ清さまに芽生えました」

 根子が清の耳元で囁いた。

 遠くを見ると、静の背中が小さくなっている。手元には、先ほどまで被っていた面を持っている。

 その面の口元は、なぜか赤く滲んでいる。それは紅なのか、それとも……。

 そして面の目元も濡れ、滲んでいる。壮絶な舞の後の汗なのか、それとも……。

 静は手元の面をじっと見つめた。まるで何かを飲み込んだ証のように──。

 しかし、静は何も言わず、そのまま歩き去っていく。 その背後を護るように、花化従が寄り添い歩いている。

 激しく美しく舞い終えた空には、滲むような夕日が広がっていた。




 ──第一章 終幕──

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