134話
「清さま──ほんに賑やかな町ですな……みな、活気に溢れてます。それに美味しそうな匂いが……やや、あれは団子屋……! 清さま……疲れ申した! 一休みしましょうよ!」
根音が額に手をかざし、団子屋に向けて一直線に走り出す。
「これ、根音……ほんに食い意地ばかり張って……たまには根子が行きたいところにも……」
清が慌てて手を伸ばす。
「ほんに、あのガキ……清さま、どこぞやの柱にでもくくりつけましょうか? それとも逆さ吊りにして……」
「これ! 根子……げに恐ろしいことを言うもんじゃありませぬ」
清は膝を折り、根子の目線に自らの目線を合わせた。
「根子は女の子。愛らしきゆえ、おしとやかに……わかり申したか?」
根子がしおらしく、黙って頷くと清は微笑んだ。
「ほうか。なら根子はどこぞに行きたい? 絵草紙屋か小間物屋か? 紙細工屋か?」
根子は顔を真っ赤にしながらもぞもぞと答えた。
「根子は……」
さらにもじもじしながら……
「根子も団子やが……」
清は目を丸くして、笑った。
「ほうか……根子も団子やか……そいじゃ行こか?」
根子の手を引き、根音のあとを追った。
「早く、清さま……美味しそうな団子が……」
その時、根音が人影とぶつかり転がる。ぶつかった人影も転がる。
「あいたたた……」
尻餅をついた根音の前に、げにいとほしき童女も尻餅をついている。しかし、童女は自らの埃を払うことなく、すぐさま立ち上がると根音に手を差し伸べる。
「あい申し訳けなし、痛うはないかえ?」
心配そうな表情を浮かべた。
「大丈夫だぁ……」
根音の傷なき様子にほっとした表情で笑顔を見せた。根音はそのうつくしき顔に見惚れてしまう。
「これ、根音! ほんに……痛とうなかったか? あいすまぬ。手前の連れが無礼を……」
清が童女の埃を払う。
「お気になされず、わたくしの不注意でございます」
童女はかいがいしく謙虚な姿勢を見せた。
男が慌てて走ってくるなり、童女の全身を確認する。
「どうされた? 怪我は……?」
清はすぐさま頭を垂れる。
「あいすみませぬ。うちの根音がそなたのご無礼を……」
童女は慌てて父親らしき男に声をかける。
「父上、心配なさるな。わたくしは大丈夫……ほんに父上は心配性な……」
童女は笑う。
「ほうか……それなら良かった。そちらも無事のよう……お互い気を付けねばなりませんな」
男は童女を連れゆっくりと歩き出した。その際、かすかな白檀の薫りが漂った。
「清さま……左手の甲に……花紋様が現れとります」
根子の目が先ほどのまでのいとけなき目が変わる。
「そのようですね……あれは『忍』の徳を持つ者ですね」
清が答える。しかし、その傍ら根音は童女の後ろ姿に見とれている。心ここに在らず。見かねた根子が根音に声をかけた。
「この、ませガキ!!」