表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花仕舞師  作者: RISING SUN
第九章──忍(しのび)の想い、秘めし愛の守り手
134/252

134話

「清さま──ほんに賑やかな町ですな……みな、活気に溢れてます。それに美味しそうな匂いが……やや、あれは団子屋……! 清さま……疲れ申した! 一休みしましょうよ!」

 根音が額に手をかざし、団子屋に向けて一直線に走り出す。

「これ、根音……ほんに食い意地ばかり張って……たまには根子が行きたいところにも……」

 清が慌てて手を伸ばす。

「ほんに、あのガキ……清さま、どこぞやの柱にでもくくりつけましょうか? それとも逆さ吊りにして……」

「これ! 根子……げに恐ろしいことを言うもんじゃありませぬ」

 清は膝を折り、根子の目線に自らの目線を合わせた。

「根子は女の子。愛らしきゆえ、おしとやかに……わかり申したか?」

 根子がしおらしく、黙って頷くと清は微笑んだ。

「ほうか。なら根子はどこぞに行きたい? 絵草紙(えぞうし)屋か小間物(こまもの)屋か? 紙細工屋か?」

 根子は顔を真っ赤にしながらもぞもぞと答えた。

「根子は……」

 さらにもじもじしながら……

「根子も団子やが……」

 清は目を丸くして、笑った。

「ほうか……根子も団子やか……そいじゃ行こか?」

 根子の手を引き、根音のあとを追った。

「早く、清さま……美味しそうな団子が……」

 その時、根音が人影とぶつかり転がる。ぶつかった人影も転がる。

「あいたたた……」

 尻餅をついた根音の前に、げにいとほしき童女も尻餅をついている。しかし、童女は自らの埃を払うことなく、すぐさま立ち上がると根音に手を差し伸べる。

「あい申し訳けなし、痛うはないかえ?」

 心配そうな表情を浮かべた。

「大丈夫だぁ……」

 根音の傷なき様子にほっとした表情で笑顔を見せた。根音はそのうつくしき顔に見惚れてしまう。

「これ、根音! ほんに……痛とうなかったか? あいすまぬ。手前の連れが無礼を……」

 清が童女の埃を払う。

「お気になされず、わたくしの不注意でございます」

 童女はかいがいしく謙虚な姿勢を見せた。

 男が慌てて走ってくるなり、童女の全身を確認する。

「どうされた? 怪我は……?」

 清はすぐさま頭を垂れる。

「あいすみませぬ。うちの根音がそなたのご無礼を……」 

 童女は慌てて父親らしき男に声をかける。

「父上、心配なさるな。わたくしは大丈夫……ほんに父上は心配性な……」

 童女は笑う。

「ほうか……それなら良かった。そちらも無事のよう……お互い気を付けねばなりませんな」

 男は童女を連れゆっくりと歩き出した。その際、かすかな白檀の薫りが漂った。

「清さま……左手の甲に……花紋様が現れとります」

 根子の目が先ほどのまでのいとけなき目が変わる。

「そのようですね……あれは『(しのび)』の徳を持つ者ですね」

 清が答える。しかし、その傍ら根音は童女の後ろ姿に見とれている。心ここに在らず。見かねた根子が根音に声をかけた。

「この、ませガキ!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ