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花仕舞師  作者: RISING SUN
第九章──忍(しのび)の想い、秘めし愛の守り手
129/252

129話

 ──花死奇談(はなしきだん)


 むかしむかし、彼の世と此の世の狭間なる黄泉路のかたへに、「死を招く使者(つかひ)」と呼ばれし、禍々しき者、ありけり。


 その者、もののけのたぐひにして、「花断(はなだえ)」と名づけらるる面をかぶり、風もなきにふはりと現れ、声なくして人の命の尽きを告げける。


 告げおはせば、たちまちにして、袖翻(かへ)し、舞ひ襲ふ。

その舞、只の所作にあらず。舞ふごとに、幽世(かくりよ)の扉ひらけ、もののけ一柱(ひとはしら)一柱、また一柱と現るるなり。


 やがて、天より飛び降り来たるは、大きなる翼持ちて、雲を裂き、星を蹴りて空を馳すもののけなり。


 かの使者、懐中より火薬玉(はなび)を取り出し、空高く掲げしそのとき、翼あるもののけ近づきて、そを口づけす。契りのごとくに。


 やがて火薬玉に火の灯るや、地より這ひ出でたるは、(からだ)巌のごとく、かたく強きもののけなり。火を受け取りしその者、風に揺らがず、雷にも動ぜず、唯ひたすらに火を守り続ける。


 されど、その火こそは「命」の(かたち)なり。


 火、尽きるとき、人の命また尽く。それをば、面の下にて、使者は笑ひて言ふなり。


「火の尽きしときぞ、死の訪れん」と。


 またある時は、翼あるもののけ、幽世より白き卵を五つ産み落とす。その卵より、まことに怪しきもののけ生まれ出づる。


 一に、鏡のごとく光を反す者。

 二に、蝶のごとき姿にして(つや)を纏ふ者。

 三に、鎖に繋がれし双子の者ら。

 四に、霧のなかにて輪郭あやふき影のごとき者。

 五に、(やしろ)社の奥より逃げ出でし巫女の面持ちなる者。


 これら五つのもののけ、夜空に舞ひて、見し者、死の定めより逃れ難し。


 されど、もしその舞途絶えしときには、より深き恐れあり。


 舞の止まりしとき、目にしたる者、死も許されず、生きることも叶はず、魂はこの世を果てもなく彷徨ひ、やがては「花死(はなし)」と成り果つる。


 花死──それは永遠の地獄にして、生者にして死者、死者にして生者、どちらにも非ざるもの。朽ちぬ屍となり、夜の世を漂ふなり。


「花死こそ、真の哀れなり」と、使者は笑ひて言ふなり。


 この者らの姿、見し者には、左の手の甲に、腐りたる痣、浮かびあがるとぞ申す。


 それがしるし。見し者の命は、すでに定められし。


 さるほどに──


 また一夜、笑ひながら近づき来たるは、死を招く使者なり。


 その歩みを止むるすべなく、近づかれし者は二つの道を迫らるる。


 死を受け入れ、此の世を去るか。あるいは、花死となりて、この世を永劫に彷徨ふか。


道はひとつ。されど選ぶは汝の心なり。


 ──あな、うたてや。あな、おそろし。


──

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