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花仕舞師  作者: RISING SUN
第八章──悌(したしみ)の絆、隠された友情の証
127/252

127話

 漆黒の蕾がひとつひらく、雨が振りはじめ地表に雨粒が弾かれる。それが人の影をなし花傀儡(はなくぐつ)弐、花雫(はなしずく)が現れる。青い瞳、青い髪を靡かせ、水のような衣を纏い舞はじめると、それに対なすように真白の蕾が開く。水鏡のような神秘の世界が広がり鏡面の如く。そこから現れるのは花護人(はなもりびと)弐、花水鏡(はなみかがみ)。美しく水鏡のような衣。瞳と髪は銀色に輝く。お互いの舞は伝八の心をそれぞれ写し出す。『(とらわれ)』と『(したしみ)』。二つの想いに揺れた伝八の心を花雫と花水鏡が舞で表現していく。

 雨が上がり、舞が終わると雲の切れ目から陽が射す。互いの二つ目の蕾が開くと花傀儡参、花徒影(はなとかげ)と花護人参、花翅(はなばね)の姿。花徒影に陽があたると青く輝く衣、じっとりと濡れたような髪。一面の花畑の世界で、花翅は蝶のような翅を羽ばたかせ舞う。伝八の心に纏わりつく『執』に寄り添うように舞う花徒影に対し、それを払うように舞う花翅。一心に鉋で薄皮の木肌を舞わせる伝八に呼応するように互いが舞う。

 第三の蕾が開く。漆黒の蕾から現れた姿は背を向け、なんとも言えない色の装束に包まれている。そこに描かれるは花が逆さに咲く模様。型を崩すような舞。花傀儡肆、反花(そりばな)。異様な舞を描くことで逆撫でにし、感情を露にす。そして真白の蕾からは二人鎖で繋がれた双子の姿。鎖が切れると一人が伝八に寄り添い一人が影に寄り添い根を大地に刺すように舞う。世界は森林のような世界に導く。花護人、肆花根孖(はなねし)の根音と根子。

「この幼子たちも……」

 兵之助が驚く。朱鷺に寄り添い尽くす姿の幼子が舞を力強く舞っている。朱鷺の腹も呼応する。

「宿る稚児(ややこ)も感じてる……あの子たちのおかげ……」

 朱鷺が腹を抱え語りかける。

 伝八の『悌』の心を根付かせるように舞を仕上げていく。

 次の蕾がゆっくりと開くと あたり一面、焔が揺らぐ。そこはまるで反花が煽った感情に焚き付けるような舞。深紅にに染まる衣、深紅の目。情熱的に見る者の心を煮え(たぎ)らかす舞。花傀儡伍、花焔(はなほむら)。彼女の舞はそれが人の心と言わんばかりに過激に舞う。真白の蕾からはそれを打ち消すかのように霧に包み一面を白く染め上げる。霧のように姿かたちはあやふやだが人影が浮かぶ。衣装は靄がかかっており、輪郭は姿をはっきりとは写し出さない。花護人伍、花霧(はなぎり)。溶かすように舞い徐々に晴れ渡る心を表すように姿が浮かぶとそこは透明感を表す瞳と衣装。殿(しんがり)の舞へと渡す橋渡し。最後の舞へすべての終わりを告げるように……。

 最後の蕾が開く。花傀儡陸、花墨(はなずみ)が登場する。花焔が焼き付くした後のように墨のような薄い黒い衣、薄い黒い目と髪色。すべてが幻のように『執』を纏わせたまま浄化を試みる舞。そして荘厳な社が聳え立つ世界が広がる。そこから花護人陸、花誓(はなうけ)が社からゆっくり歩いてくる。手には誓約書を持ち花の冠を頭にかぶり、舞を舞いながら誓約書を掲げる。そこに終演を知らせるかのように伝八が最後と言わんばかりに鉋を滑らす。


 シュッ──


 最後の仕上げの如く微かな木屑が削られ地に落ちた。伝八は天を見上げ微笑んだ。

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