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花仕舞師  作者: RISING SUN
第八章──悌(したしみ)の絆、隠された友情の証
118/252

118話

 二人の男が対峙する。張り詰めた糸が空気までも引っ張っていく。まるで止まったようだ。

「しからば伝八殿にこの匠をお願いしたいのだ」

「話を頂けることは嬉しいが、見ての通り儂は身体がままならぬ。無理だ」

 

 コホンッ……


 伝八は軽く咳をする。


 宗光はそれでも引き下がらなかった。兵之助とな約束もある。それにか「幸吉の名において」た口に出したのだ。ならば、おずおずと引き下がるわけにもいかなかった。しかし、伝八を頷かせるには針の穴に糸を通すようなものだ。暑くはない。しかし、宗光の額には汗が滲んでいる。宗光は懐に手をいれ、ある書状を伝八に差し出した。

「これを……依頼主からの想いが込められた文でございます。一度、こちらの書状、何卒ご覧じくださりたく存じます」

 伝八は差し出された文を手に取りまじまじと見た。

「これは……」


 ──伝八殿 机下(きか) 祈筆(きひつ)にて候──


 「重々しき筆跡……これは……」

 ゆっくりと蛇腹に折られた文に目を通す伝八。さらに糸は張り詰める。幾重にも編み込まれた糸はぷつり、ぷつりと切れ、それでもなんとか芯なる糸が辛うじてその空気を繋ぎ止めている。

 時間だけが過ぎていく。

 ゆっくりと、文を読み終え閉じる。もういちどまじまじと文を見ながら裏を返す。


 ──風月同天──


 すっと息をつく伝八。天井を見つめた。そこから見えぬ空を眺めた。いや、あの頃の若かりしころに眺めた空を見ていた。

 「『風月同天』か……あいわかった。宗光殿とやら……しかしながらこの話はなかったことにしてくれぬか……」

「なぜに……納得のいくお答えを頂きたい。なぜゆえに拒まれる?」

 宗光は問い詰める。

「そう、怖い顔をしなさるな。この幸吉とやらの想い、十分に伝わった。そして多分、儂に依頼しておるお館さまとやらの想いも……たいそう恐れ入るほどの想い……」

 伝八は唇を噛んだ。

「なら……その想いを汲み取って頂けるなら……」

 

 ゴホッ、ゴホッ……


 先ほどよりは強く咳をする。

「若き日の儂ならば良い返事を返しただろう。じゃが、無理だ。この身体……やはり言うことがきかん。それに……この筆跡……いくら時が経とうが忘れることはない……『風月同天』、たとえ離れた場所にいても、同じ空の下にいても、感じていたものは違うのだ。共感していたものは最早ないのだ。それを背いた儂に、『(とらわれ)』に生きた儂に資格はないのだ。……もう、帰れ……宗光とやら…」 

 心が折れかける。兵之助と幸吉の想いが消えかける。その時、玄関口から声がする。


「伝八殿はおられるか……? 宿清と申します。此度、零闇殿の名において参上つか奉りました。何卒お目通りを……」

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