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花仕舞師  作者: RISING SUN
第八章──悌(したしみ)の絆、隠された友情の証
116/252

116話

「そんなことが……」

 清は深いため息をつき、兵之助を見た。

「それから、なぜか話がうまくいかなくなった。理由はわからないが仲間だった者が一人抜け、一人抜け気付けば話は頓挫してしもうた。儂は失意のうちその場を去った。じゃが伝八だけは違ったのぉ。弟子たちと立派な礼尊寺を築きあげた。儂は何を見誤ってたんだろうな。やはり(ばち)が当たったのかも知れんな。仏の心を軽んじたがために、まだまだ若気の至りというには、あまりにも天狗に成り過ぎとった……」

 清は目を伏せた。

「契ですか……その契はいとも容易く切れてしまったと……なんと脆い契なんでしょうね……兵之助殿」

 清は含み笑いを見せた。

「清殿? なんと……」

「ほんに軽すぎて笑いが止まりませぬ」

 徐々に笑い声が出だす。

「清殿……愚弄する気か?」

 先ほどまでと雰囲気が変わる清に異常さを感じとり、兵之助ら顔を赤らめ怒りを顕にした。

「兵之助殿、契の意味を理解されとりますか? 契とは永遠に切れるものではないと心得ております。そして、手前はそれを知っております。宿家(やどりやけ)一族に伝わる契……『花切の契』」

「花切の契と……?」

 聞き耳にしたことのない詞に呆気に取られる兵之助。

「左様でございます。久遠の契。それはいかなることがあろうとも、切れることのないものでございます。手前の契は断絶の契ですが……」

 おもむろに清が兵之助に手のひらを向ける。

「届け──花文!」

 兵之助の心に直に清の想いが伝わる。想いと言うには生ぬるい。清の憎悪が流れ込む。

「なんだこれは……花切の契……これが……」

 兵之助のまなうらにありありと浮かぶ。

 

 ──そこは宿家の惨劇。黒髪の女性が母親らしき人物に刃を突き刺し、そして笑いながら清殿の胸にその刃を突き刺していく。清殿は「姉さま」と読んでいる。刃は清殿の華奢な身体をほどなく貫いている。そして清殿が目覚めると目の前の地獄絵図。伏せたまま喉を切られ背中を貫かれた母親、喉を横一文字に切られ心の臓を穿たれ絶命した父親。その父親が手にする『花切の契の舞』と書かれた書。

 「永遠の断絶を望む者に舞えば永劫に心は縛られる。解く術なし。死の先にすら交わることは断じてなし……今一度心に問え、一時の感情に惑わされるなかれ。それが許せる存在ならば我を呼び出すことなかれ」それを何度も口にする清殿。そして決心した清殿は舞っている。舞い始める清殿は闇に包まれ、そこから異形の存在が姿を現す。現世(うつしよ)の者ではないことはすぐわかる。顔は髑髏(しゃれこうべ)そのまま、しかし瞳はぎょろりと目玉を浮かべる。言葉を発している。

「我は花切(はなきり)。未来のそなたらの姿……この姿になったとしても断たれた気持ちは巻き戻らない。この花切鋏(はなきりばさみ)を使いすべてを断ち切れ……」

 花切は漆黒の色をした鋏を手渡した。清殿の目の前に赤い糸のような光が線引かれる。手渡された花切鋏をその光に鋏で挟んでいる。

「さぁ……切れ……断絶を願う者……」

 清殿はゆっくりと鋏を動かしている。


 シャキン──


「ここに花切の契、締結。これにて永遠の断絶成立なり……」

 

──


 そこで、まなうらに映った姿は消えた。そして目の前には三つ指をつき、畳に額をこすりつける清。

「これこそが久遠の契、『花切の契』、姉、静との永遠の断絶。契りとはそれほどの覚悟を持てるかどうかです」

 清は静かに言葉を紡いだ。

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