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花仕舞師  作者: RISING SUN
第八章──悌(したしみ)の絆、隠された友情の証
114/252

114話

「兵之助殿はおられますか?」

 伝八に文を認め上げ、宗光を送り届けたあと、御座所に戻り時間を過ごしていた兵之助の元に声がかかる。

「その声は清殿か? どうぞ遠慮なさらず」


 スウッッ──


 障子が心穏やかに開く。兵之助は耳を澄ますようにその音を聞いていた。

「この屋敷はほんに恐れ入りますな……区切り区切りの戸が心地よく開きまする。まことに気鬱(きうつ)なく、胸の内晴れやかになりまする。ほんに心の屋敷でございますな」

 兵之助は清の言葉に感嘆する。

「まさかこの屋敷の戸に想いを馳せてくれるとは……これは儂が契りを交わしたある男の匠の(わざ)でな。そやつはよう言いよった。「屋敷は、人を守る器だ。心がなきゃ、ただの木の箱だ」と……」

「左様でございますか……ほんに立派な匠の業でございますな」

 清は言葉を受け入れ、感嘆のため息をついた。

「ところで旅の疲れは取れましたか? ほんにかたじけなかった。朱鷺をここまで送り届けて頂き言葉にできぬ。腹の中の稚児(ややこ)も礼を言いたいだろうに」

 兵之助は頭を下げた。

「こちらこそ、ここまでよくして頂き……ところで先ほどの御方は? 何やら急ぎ足で出ていかれましたが……」

「あれは、弥三淵の村長、羽戸山宗稔(はどやまむねとし)(せがれ)、宗光殿。清殿もご存知の通り、弥三淵に学舎建立のためこちらまで遣いとして足を運ばれ、そして学舎建立の要となる匠の元に向かった。この要、奴しかおらぬと思ってな」

「もしや、奴とはこの屋敷を建て契りを交わしたという匠でございますか?」

「その通りじゃ……じゃが過去、ある寺を建てる時に揉めてな……それが今も続いておる」

「今も……お互いの信念のずれがそうさせた……そう、礼尊寺(れいそんじ)の建立に際してな……」

 まるで懐かしむように目を閉じる兵之助。

「礼尊寺? もしや零闇(れいあん)さまの礼尊寺でございますか?」

「零闇殿をご存知か? そう、零闇殿のところの礼尊寺じゃ……」

「そうですか……もし、よろしければ、何があったかお聞かせ願えればと存じます」

 清は一度、真っ直ぐ兵之助の目を見据え、頭を下げた。

「ほんに不思議な人よ、清殿は……心を許せるほんに不思議な人ぞ」

 遠くで朱鷺と根音、根子が戯れる声がする。兵之助はその声をまるで、後の世に生まれる孫の声と重ねていた。静かに笑う兵之助は口を開いた。

「これは女房にも朱鷺にも、幸吉にも話すこともなかったことだがな……これも不思議な(えにし)なのか……なんなのかわからぬがな」

 兵之助は礼尊寺建立の際の出来事を清に話聞かせた。

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