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花仕舞師  作者: RISING SUN
第八章──悌(したしみ)の絆、隠された友情の証
110/252

110話

 しばらくすると耶三淵村から村長、羽戸山宗稔(はどやまむねとし)の使いで息子の宗光(むねみつ)が兵之助の元を訪ねてきた。

「父、宗稔が病に伏しておるため代理でこちらに参上するよう申し使わされました。こちらの幸吉殿の文にいたく感銘を受け耶三淵の地に学舎の建立を志し、その話し合いで伺った次第です」

 宗光はことの真相を兵之助に伝えた。

「宗稔殿のご子息か。それは遠路遙々、ご足労をありがたい。こちらも今はなき幸吉の意思を汲み学舎の件でお伺いしようと思うておったところ」

具体的な話し合いが始まり、誰に学舎の建築を頼むかまで話が進んだ。

「学舎の建築には京で名高い深井伝八(ふかいでんぱち)殿に任せようと思うのですが?」

「何? 伝八と?」

 兵之助は伝八の名を聞くと一瞬で顔が曇った。

「いかがされたか?」

「いや、確かに腕は確かだが伝八が首を立てに振るだろうか?奴にはきっと儂によい感情は抱いておらんだろう。なんせ、儂と奴には昔、とある社寺(しゃじ)の建立で揉めたことがあってな。その社寺の名は礼尊寺(れいそんじ)。それ以来奴とは縁を切っておったが……しかし、この学舎の経緯を知れば適任は伝八なのじゃが……」

 兵之助は渋りはしたが、一度伝八に話をすることで決着した。


「伝八か……まさかここで奴の名が出るとはな……礼尊寺の件、まだ根に持っておるだろうか? いや、儂の方が持っておるだけかも知れぬな」

 この夜、兵之助は床についたが眠れず、過去の因縁を思い出していた。

 兵之助と伝八。ふたりはかつて、貧しい村で『義兄弟の契り』を交わした間柄だった。兵之助は伝八より五つ上。

 時は移り、それぞれが道を決めた時、兵之助は商人として、伝八は匠として道を進んだ。

 二人は精を出し伝八は若くして匠の棟梁。無骨で頑固だが、義に厚く、仲間を何より大事にする性格だった。兵之助は若き商人。世渡り上手で笑顔を絶やさぬが、内には計り知れぬ商への飽くなき信念を抱いていた。二人には「町を豊かにしたい」という夢を共有していた。伝八は「屋敷を建てて人を守りたい」、兵之助「商いで人を豊かにする」、仕事が落ち着くと夜な夜な二人は酒を交わし、そう夢を語り合っていた。


 ──どうしてるもんだろうか? 伝八よ……風の噂には聞いとる。次々に立派なものを築きあげとると。相も変わらず頑固に言うとるか? 「屋敷は、人を守る器だ。心がなきゃ、ただの木の箱だ」と……此度の学舎の匠は伝八が打ってつけじゃ……じゃが依頼に儂が関わっていたら……奴は今も儂を赦してはおらんだろうか……──

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