106話
清たちは京への帰路についた。妊娠している朱鷺の身体を労りながら少し歩いては休み、歩いては休みを繰り返す。根音と根子が朱鷺に寄り添い、無理をさせなかった。
清は三人と離れ一人、想いを巡らせていた。それは違和感に近い感情だった。
──なぜ、お朱鷺さまは、すんなり舞を受け入れた? 確かに切羽詰まった状況。半ば強引に舞を行った感は否めない。しかし、お朱鷺さまは私に良い感情は抱いていなかった。仕舞う意味さえ、曖昧だったはずだ。お朱鷺さまの幸吉殿に対する愛情は確かなもの。ならばなんらかの抵抗があって良かったのに……──
根音と根子と戯れている朱鷺の姿。哀しさや淋しさを抱えている表情は良い意味で晴れやかだ。それは幸吉の想いをしっかりと引き継いだ証だろう。
──そして、なぜ姉さまは舞の場に現れなかった?──
二つの疑問を持ったまま清は考え込んでいた。
──今回は無事、仕舞えた。本当に私の力だけで仕舞えたのか? 姉さまは「半死を作られたら厄介」と言った。ならば……来るはずだ……──
「清さま……どうかされましたか?」
気付くと根子が清の顔を覗き込んでいた。
「いや、なんでもない……それよりお朱鷺さまはどう?」
「はい……気持ちは不安定なところはありますが、体調はよろしいかと……」
「それは良かった……もう少し休んでいこうか」
根音もいつの間にか清に寄りかかり、うとうととしている。
「こら、根音。清さまに寄りかかったら清さまに負担が……」
「良い……ほら、根子もいらっしゃい」
根子は表情を明るくし隣に座り、寄りかかった。そして根子もうとうとし始めた。
「ほんに苦労をかけるな……二人とも……」
しばしの休息に三人は寄り添った。
遠くでそれを見ている朱鷺。
「ほんに親子みたいな関係性ですな……しかし、あの幼子たちは人に非らず。ただ、今はほんに母を慕う稚児のよう……」
朱鷺は微笑んだ。そして懐から幸吉が消滅した場所で拾い上げた『時留の花飾』を出して眺めた。
「これはお前さんの形見になりましたな。しかし、この髪飾りは清殿がいつも頭に差しているものと同じ……時を留める代物とあの人は言った。清殿もなんらか時を留めなければならないものがあるのだろうか?」
朱鷺は寄り添い合う三人の背中を見ながら呟いていた。
「ほんに不思議な人じゃった。言った通りにすべてがそうなった。まるで導かれるように。そして清殿は私の心に幸吉さまの想いを届けてくれた」
「幸吉さま……あなたの想いはしっかりと継がせて頂きまする」
朱鷺はその想いを心に留め眠りについた。