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花仕舞師  作者: RISING SUN
第七章──孝(いつくしみ)の若き子、親を忘れし心
103/252

103話

幸吉は宗稔(むねとし)に伝え終わると手代の女に文を渡した。

「今回のくだんの件を描いとる。宗稔殿の体調がよろしい時に渡してくれ」と一言付け加えた。

庵に戻る帰路、幸吉は朱鷺に願いを申し出た。

「朱鷺よ、これをお館さまに渡して欲しい。強い願いじゃ……この幸吉の一世一代の願いを認めておる……」

「御前さん……何をおっしゃる? 一世一代の願い事とは? 戻られゆるりと父上に話せばよかろう……」

 そう声をかけるとなにやら幸吉の顔色が悪い。

「ほんにそうしたいのは山々。じゃが……それは叶わんみたいだ。ほんに不思議よ。先ほどまでなんともなかったが……今はどこかしらの具合が……身体がよう動かん、目眩もする……これが花紋様の予兆を知らせる刻か……」

「何をおっしゃる……御前さん……花紋様とはなんぞ……? しっかりなされよ……」

 朱鷺は急に具合を悪くする幸吉を心配し、声をかけた。

「ほんに、何処かで清殿の言葉を真に受けとらんとこがあったが、いざそれを察すると……朱鷺……儂はここまでのようだ」

「ここまで……? な、何をおっしゃる? しっかりしておくんなまし……」

「そうだ……儂はまだ死にとうないんじゃが、そう、うまくはいかんらしい。儂をあの庵へ……清殿の元へ連れて行ってくれ。そして、朱鷺……そこで起こることをしっかり見届けてくれ……」

 朱鷺はただならぬ気配に頷くこともできず、ただ幸吉に肩を貸すだけだった。陽は曇る。しかし、雲の切れ目から、そこに陽の神の指先のように光が射していた。

「朱鷺よ、儂の命は尽きても光満ちる世は輝く。儂と朱鷺の間の稚児(ややこ)の顔を見れんのは心惜しいがの……」

「何をおっしゃる! しっかりしてくださいまし……」

 隣で必死に声をかける朱鷺の声が遠くに聞こえる。朱鷺に聞こえるは幸吉の苦しい息遣いのみ。

「御前さん……庵につきますぞ。しっかりしてくださいまし……」

 幸吉を抱えたまま重い引戸を開ける。


 ガタガタッ──


 そこには目を伏せたまま決意を胸にした清が座していた。ゆっくりと目を開ける。後ろには根音と根子が控えている。

「お待ちしておりました……幸吉殿。花紋様、枯れ花の如く色づいてございます。お朱鷺殿、申し訳ござらん。刻は満ち申し立た。いざ花仕舞師、宿清(やどりやきよ)……この舞を持って幸吉殿の死を徳を持って仕舞わせて頂きます。いざ花霊々(はなたまがら)の舞を……根音、根子……舞支度を……」

「「御意──」」

 二人の幼き姿から発する言葉は幻想的でありながら、吸い込まれそうな神聖さがあった。朱鷺には抗えぬほどの見えない力が働いていた。

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