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花仕舞師  作者: RISING SUN
第七章──孝(いつくしみ)の若き子、親を忘れし心
102/252

102話

「お身体大丈夫で? 懐かしゅうございます」

「おお、あの頃のやんちゃな稚児(ややこ)のお前がそんなたいそうな気を遣うようになったか……兵之助殿に鍛えられたか……」

「ええ……たいそう良くしてもらいました。そして、こちらがお館さまの一人娘の朱鷺……今では儂の家内でございます」

 控えていた朱鷺が三つ指をつき、頭を垂れた。

「そうか……兵之助殿に認められたのだな……して、この老い耄れに何用ぞ……?」

 早速、本題に入る宗稔(むねとし)。幸吉の宿る目がそうさせた。

「床に伏せられているところ申し訳ないと思いつつ、願いこうむりたく参上させて頂きました」

「どうした? そんな改まった顔をして」

「宗稔殿……お雪婆の庵の件で……」

「お雪婆? おお、お雪殿か……いったい何処に行ってしまわれたのか?」

「姿を消されたと……?」

 幸吉は清の存在を改めて感じとった。


 ──そうか、この村でお雪婆の死の真相は誰も知らぬのだな。花仕舞師に仕舞われた事実を……──


「そうじゃ、いつも一人だったからのぉ……忽然と消えてしまった。正直、あの歳じゃ、何処かに行ったとは考えにくい。どこかで息絶えてしもうたか……」

 宗稔はふっと息を吐いた。

「寂しい余生だったかも知れぬ。お前がおったあの頃は子らに囲まれ過ごしておった。生き生きしておったのぉ……まるでこの村の母じゃったのぉ……」

 確かにそうだと幸吉は思った。だからこそ、宗稔に会いに来たのだ。

「確かにお雪婆にはお世話になり申した。今があるのはお雪婆のお陰と言っても過言ではありませぬ。そこで……今は空き家となったあの庵はどうするつもりで? お雪婆は独り身、宗稔殿、ここの預かりか領主さま預かりになっているのではと思いまして」

「確かに今はうち預かりになっておるが……」

 その言葉を聞いた瞬間、幸吉は座を正し、深く頭を下げた。

「あの場所に子らの学舎を築かせて頂きたい。お雪婆がいた頃のように子らが元気に学び、遊び生き生きとできるところを……そして光持つ世にその子らが生きるように……」

 限られた命の輝きかその宿る力に圧倒される宗稔。

「ほうか……その想い、まるでお雪殿が乗り移ったようじゃな。よかろう……儂はこの身体につき自由がきかん。息子、宗光(むねみつ)に取り次ごう」

「ありがたきお言葉、真、慈悲深き言葉感謝いたす」

 幸吉はさらに深く頭を畳に擦り付けた。

「その学舎……名を決めておるのか?」

 宗稔は幸吉に問うた。幸吉は力強く返す。

「はい……学舎の名は『|仁巡孝院、恩雪庵《めぐみめぐりいくつみのかこい、おゆきあん》』にてこざいます。そして創始者はお雪婆と決めております」

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