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第94話 生涯たった一つの願い事

「どうせ、今の君は分かってくれないだろうし、言っても理解しないだろうから、君の何を私が好きなのか、これから私がしっかり行動で示していくことにするよ」

「……はあ?」


 ――行動? 

 これ以上、一体何を?


 すでに、今回のお礼と称して今着ている上等な瑠璃色のドレスを始め、リーゼにはもったいないくらいの華やかな装束品を贈って頂いているのだ。


(これ以上のことなんて)


 シエルは、王になるのだから……。

 それだけの才覚があると、リーゼは何度も確認している。

 そんな尊い人が、今、全力で自分を好いていてくれていることは、さすがにリーゼとて分かっている。

 でも……。

 

(殿下はまだ二十歳で若いんだし、先は分からないって、覚悟はしておかないと)


 国王の伴侶が魔女だなんて、貴族社会がまず許さない。

 いつか、彼に相応しい人が現れた時、リーゼは身を裂かれるほど辛い思いをするのだろう。

 でも、シエルはリーゼの初恋の人で、サロフィン城からも家族の因縁からも解き放ってくれた命の恩人だ。


(私の生涯をかけて、何処にいても殿下を支えて行く。それで良いのよ)


 少女のような甘いときめきと、年を重ねて、早々に感じるようになった諦め。

 リーゼが浮かべた透明な微笑を、しかし、シエルが見逃しているはずがなかった。


「相変わらず信じてないようだね? リーゼ」

「ま、まさか。私は殿下のことを一番に信じていますよ」

「だったら、リーゼ。これから私と教会に行こう。サロフィン城は別の機会でも構わないよね?」

「…………教……会?」


 想定外の場所に、リーゼは小首を傾げた。


「私はすぐにでも、今回のことを懺悔した方が宜しいと?」

「違うよ。本当に面白すぎる人だな。リーゼは」


 くすりと笑っていたと思ったら、シエルは投げ出していたリーゼの手を掬い上げて……。


「……殿下」


 今度は手の甲に優しい口づけを落としたのだった。


(また何をするのだろう。この人は……)


 リーゼは石のように固まってしまった。

 レイモンドの視線が痛いし、悍ましい。


「リーゼ。教会と言ったら、君が好きな恋愛小説に毎回出て来るじゃないか? あんな魔力のこもった鐘ではなくて、祝福の鐘を鳴らしてもらおう」

「今度こそ、本当に言葉の意味が……?」

「私と()()()を挙げるんだよ。()から」

「……………は?」


 ――結婚式?

 何がどうして、そんな話になってしまったのか?


「大掛かりなものは、すぐには無理かもしれないけど、既成事実さえ作ってしまえば、父上も諸侯も黙らせることはできる。それに、さすがに人妻に手を出すようなこと、ラグナス国王も考えないだろうしね。我ながら名案だと思うんだけど?」


 一応、シエルなりにリーゼと今後のことを真剣に考えていたようだ。


(いや、めちゃくちゃ、強引すぎる手段でしょ……)

 

「待ってください。でも……」

「殿下!!」


 リーゼが頬を赤らめながら答える前に、レイモンドが身を乗り出していた。


「一体、何をお考えになっているのですか! 今はそれどころじゃなくて……ですね!!」

「レイモンド。私は、今だからこそと思うんだけどね。こんなに大切なことは他にないだろう」

「そんな……」


 先ほどの威勢は掻き消えて、レイモンドの血の気は失せ、唇が紫色になっていた。

 この短時間ですっかり老けこんでしまったようで、いっそ可哀想なくらいだった。


「あのさ、リーゼ。宝珠が君のことを指すのなら、まだ私の願い事を叶えてもらってないような気がするんだよね。だから、私の生涯たった一つの願い事は「リーゼとの結婚」ということするよ」

「何をまた……仰って……いるのですか」


 レイモンドの無言の圧力を受けて、リーゼはしどろもどろになりながら、シエルに告げた。


「殿下の行動力は、よく分かりましたから。今はどうか、後悔しない選択を」

「後悔……? リーゼ、君と結婚しないで後悔することはあるだろうけど、結婚して後悔することは絶対にない。だって、君を見つけたのは、私だからね。魔力があるなしじゃない。君は私だけの「宝珠」なんだよ」

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