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第93話 分かってないリーゼ

 きょとんとしていると、シエルはリーゼの耳元で悄然とした表情で尋ねてきた。


「ここまで言っても、心当たりない?」

「……皆目」

 

 はあ……と、シエルはともかく、何故かレイモンドにも溜息を吐かれてしまって、リーゼはうろたえた。

 シエルがこの上なく不機嫌に口を開いた。


「先日、あの……何だっけ、先にサロフィン城に帰ってもらった子……あの子が言っていたんだけど」

「エレキアですか?」

「そう、そんな名前だった」


 可哀想に……。

 シエルは、エレキアを認識していないようだ。


(エレキア、貴方の言う通りだったわね。殿下は女性の名前、覚えていないって……)


 シエルの側妃は諦めたと言っていたエレキアだが、シエルに取り入って、良い縁談を斡旋してもらいたいという野望は捨ててないと話していた。

 リーゼも、力になりたいとは思ってはいたが……。


「その子が私達の前で言っていたんだよね。リーゼはラグナス国王に連絡を取って、今回の叔父上の件が丸く収まるように協力を依頼していた……とか」

「あー…………」


 そうか。

 それが原因か……。

 シエルがおかしかったのは。


(エレキアったら)


 口止めしていたつもりでいたのに、さっさっとシエルにバラしていたらしい。


「叔父上との決着がどうりで早かったよな……と思って。戦いも始まっていないうちから、叔父上側の勢力の中で離反する者が多かった。リーゼの魔法も功を奏してはいたけれど、それにしたって、あれだけ私達が劣勢だったのに、何だかいつの間にか形成逆転しているし」

「あの時は、私もやむにやまれず……ですね」

「分かっているよ。リーゼが心配して動いてくれたことはね。でも、そうなると、君の立場が益々不安定にもなるでしょう? それに、まず見返りは? アルフェイドに、何を用意することにしたのかな? まさか、結婚するなんてこと、アルフェイドと約束していないよね?」

「ま、まさか。私はあくまで()()()()と言っただけで」

「言ってるよね!! それ一番、駄目なヤツじゃないか」


 シエルが、身体をわなわなと震わせている。

 更に深く長い溜息をレイモンドが漏らしていた。


(ここまで、殿下があからさまに怒ってらっしゃるなんて)


 いつか話そうと思っていて、後回しにしていたのがいけなかった。

 リーゼは蒼くなって、必死に言葉を重ねた。


「大丈夫ですって! あくまでラグナス王とは口約束ですから。証文なんてありませんし、考慮なんて言葉、如何様にも解釈できます。ミゼルであれば、この程度の交渉くらい……」

「君はラグナス王を甘く見過ぎだよ。私は嫌な予感しかしないけどね。あいつはそんなお人好しじゃない。絶対に裏があるはずだから。叔父上も含めて、壮大な何かの計画だとしたら? そしたら?」

「いやいや、殿下は考え過ぎですよ。ラグナス王はミゼルに興味があって、その延長線で私を欲しているのかもしれませんけど、私の使う魔法は不安定で……。上手く制御すら出来ないのです。いつ力が費えるかも分からない不確かなものなんですよ。役立たずの私なんてすぐに興味もなくなりますよ。殿下だって……」

「へえ……。何? 私が君に興味がなくなるって。それ、本気で言っているの?」

「えっ?」

「……本当に、何も分かってないんだな。君は」


 ぞくりと、寒くなるようなシエルの低い声。

 肩を落としたシエルは、そのままリーゼの髪を一房掴んで、自然な流れで口づけた。


「はっ!? 殿下!!??」


 急に恥ずかしげもなくそんなことをするから、彼は恐ろしいのだ。


「何度だって言うけど、私が王になろうとしているのも、逃げずに強くなろうとしているのも、全部、君がいるからなんだよ」

「わ、分かりましたから。分かりましたって!」


 溢れる色気に卒倒しそうなリーゼは意味も考えないまま、何度も頷いた。


「私が君を気に入っているところを、一つ一つ上げてみても良いけれど……」


 ……と、そこまで言ってから、粘着質に監視しているレイモンドの存在に気づいたらしい。

 シエルは咳払いをしてから、密やかな声で言葉を繋いだ。

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