第83話 侵入者
(試してないから、分からないけど……。でも、ミゼルが話していた通りなら、大丈夫なはず)
「これがあれば、時間も稼げますし、魔法も弱点は多いですが、種類は豊富に覚えているので、何とかなりますよ。心置きなくエレキアは……」
……と、胸を張って得意げに見せたのだが、しかし、次の瞬間、エレキアがぽつりと尋ねてきた。
「……でも、早速、それ光っているけど? 誤作動?」
「えっ?」
魔力の塊は、侵入者を示す赤色に輝いていた。
何か、設定を間違えてしまったか?
――いや。
何度も何度も確認したから、それはないだろう。
では?
(誤作動でないというのなら?)
答えは、決まっている。
「……誰か来たみたいですね」
「ええっと、じゃあ、王太子殿下かしら?」
「違いますね」
少し離れた場所で、剣戟の音がする。
(護衛の方々?)
しかし、もし、シエルであれば、護衛が剣を抜くなんてことないはずだ。
「大公側かもしれません。エレキアは隠れて下さい」
「はあ、隠れるって言ったって、何処に!?」
エレキアが目を凝らして周辺を探すものの、結局、間に合わなかった。
二人の護衛が、叫びながら、リーゼの前までやって来る。
「逃げて!!」
後ろから、青い軍服姿の兵士たちが、大剣を振りかざして、今まさに彼らを切りつけようとしていた。
命の危険に晒してしまったのは、リーゼのせいだ。
(何でもいい。適当な呪文を!)
リーゼは、魔法が決まった時のミゼルの不敵な笑みを思い浮かべた。
「ルアク=サリス! 風の精霊よ!!」
リーゼの叫声と共に、突風が吹き荒れて、追手は横倒しになった。
それは、以前ミゼルが気に入らない相手を足止めするのに、使ったことのある魔法だった。
「これは、一体……?」
追いかけて来た刺客が茫然自失で、転がっている兵士たちを見下ろしている。
助かった護衛の二人は、リーゼとエレキアのところまで、走り寄って来た。
「大変です。大公が……」
こんなに早く気づかれてしまうとは思っていなかった。
山の中だし、もう少し時間稼ぎが出来るだろうと……。
(侵入者を報せる結界も、もう少し発動を早めに設定しておく必要があったわね。おかげで、逃げられなかったじゃない)
しかし、今のリーゼなら、数十人くらいの兵士なら何とか相手が出来るのではないだろうか?
ミゼルが使っていた魔法の呪文。
三百程度は諳んじることができるはずだ。
だが、リーゼの自信も、その人物の登場で、あっけなく打ち砕かれてしまった。
「誰かと思えば、お前か……。魔女の召使い」
追手の兵士たちが綺麗に真ん中の道を開けて、膝をつき、一斉に頭を下げた。
(なぜ、この人が?)
オズラルド大公自らがやって来るなんて、リーゼの想像の範疇をはるかに越えていた。




